出番作りたいの
「ほほぅ、あのビルスキールニルから」
アルフから連絡を受け、ユグギルは感嘆の声をあげた。
あの島に生き残りが住んでいるというのはアッシュヴィトから聞いている。
その生き残りたちは島を守護していて"コーラカル"には関わらないだろうと思っていた。事実、そういう話も"コーラカル"内部でなかった。
それがわざわざ島の守護の戦力を割いて"コーラカル"に参戦するという。
参戦者は2人。そのうちのラクドウとは彼にかけられた記憶操作から解放された時に顔を合わせている。
片方はまったくの初対面だ。どんな人物かもアッシュヴィトからの伝聞しかない。名前はバッシュ・アルスヴィトといったか。
「入るヨー」
気の抜けたアッシュヴィトの声とノックが聞こえた。応、とユグギルが応じる前にドアが開いた。
ノックの意味とはなんだろうか。思わず苦い顔をしてしまった。
気を取り直し、ユグギルは入室してきた3人を見る。先頭のアッシュヴィトには後でノックというものの意義について説教するとして。
「こうして会うのは2度目じゃの」
ラクドウにそう声をかけた。えぇ、と返事がきた。
積もる話はさておき、とユグギルは残りの一人を見た。彼がビルスキールニルの武官長とやらか。
「お初にお目にかかる。バハムクランのリーダー、ユグギル・エルジュ・ベヘムトと申す」
「堅苦しいのは嫌いでな。普段の言葉で返すぜ。バッシュ・アルスヴィトだ」
この場にイルートがいたら杖で殴られ礼儀というものについての説教が始まりそうな口調でバッシュが会釈する。
気取らない性格は主譲りか。それならばこちらも気取る必要はなさそうだ。肩の力を抜いてユグギルは話を進めようと口を開いた。その刹那。
「どうも、出番作りに来ました! ビルスキールニルからの客人だって!?」
ばたん、と乱暴にエルデナが乱入してきた。ノックすらない。
「ひゃあ、初めまして! あ、そっちはラクドウさんね! 前はあんまり挨拶できなかったけど、久しぶり!」
「お、おう。バッシュ・アルスヴィトだ、よろしくな」
たたみかけるようなエルデナの勢いに押されつつバッシュが名乗る。ラクドウはやや後退して距離を取りつつ視線で会釈するにとどめた。
握手のため差し出したバッシュの手を取り、エルデナはその手にはめられたブレスレットを見た。
「うわぁすごい! これ"フランベルク"!? やだ、本物初めて見た!」
そして、と右のブレスレットと一緒に装着されているバンクルは。それを認め、エルデナはさらなる歓声をあげた。
「きゃあ! これって"フィアンマ"よね! すごい! 感激!」
「これ、エルデナ。落ち着かんかい」
きゃいきゃい歓声をあげるエルデナをユグギルがたしなめる。
どうやらエルデナはあのビルスキールニルから誰か来ると聞き、ビルスキールニル産の武具を一目拝もうと乱入してきたようだ。
バッシュはというと、手を取られたまま呆気に取られている。女と見れば手を出す色ボケと呼ばれる女好きでも、彼女のテンションに対処しきれず手を出すどころではない。
「いや無理! あー無理! だって伝説が実在したのよ!」
ビルスキールニルは伝承だとか神話だとかにしか聞かない存在だ。
ほとんど島の外に出ないという生きる伝説の"不滅の島"なのである。
そのビルスキールニルの技術によって作られた武具など、ビルスキールニルの外に出回るはずがない。
それが目の前にあるのだ。武具職人として興奮しないわけがない。ビルスキールニルから来客と聞き、乱入する程度には。
「わかったわかった。後で好きなだけ見せてやるから今は出ておれ」
「おい爺さん勝手に決めんな」
「わかった! 大事な話の最中にごめんね! じゃあお客さんたち、また後でね! 後でじっっっくり見させてね!」
バッシュのツッコミは無視。
たたみかけたエルデナは、来た時と同じように慌ただしく部屋を出ていった。
「直情傾向だネェ…」
「直情傾向の塊が何を言う」
思い立ったらすぐ行動が信条のくせに。エルデナのことをどうこう言えはしない。
アッシュヴィトのぼやきに鋭い指摘を入れ、ふぅ、とユグギルは気を取り直した。
「改めて、両人ともよろしく頼む」
「改めて聞くが、正気か」
「正気も正気よ」
にぃ、と笑うカガリにユミオウギは頭痛がする思いだった。
シャロー大陸に乗り込み、パンデモニウム本拠地に攻勢をかける。その作戦についてあれこれ考えていたというのに、カガリはとんでもない作戦を提案してきた。
いや、確かにそれは最も意外で、そして最も効率的で最短ではあるものの。しかし正気の沙汰ではない。
これから行われる作戦会議の場で発表するカガリの作戦を聞き、皆が呆気に取られる姿がありありと想像できる。
「最後にもう一度聞くが、正気か」
「正気だとも」
妾は度肝を抜くのが何よりも好きでの。にんまりとカガリは笑った。
会議の参列者たちが呆気に取られるだろう様子を思い描いて笑いがこみ上げてくる。
いや、我ながらなんとも突拍子もなく、そして効率的な作戦を立案したものだろうか。
ユミオウギが何度も確認するのも無理はない。カガリが考え出したその作戦は、まさに正気の沙汰ではないものだ。
「旗印の2人は喜びそうだが?」
「そういう問題じゃない」
確かにあの2人、特にビルスキールニル皇女の方は乗り気になりそうだが。
いや、でも。これから戦争に備え、具体的にどうシャロー大陸に乗り込むかという話をするための会議でその案をぶちあげるなど。
「その時には手配は任せるぞ」
「……採用されたらな」
どうか採用されませんように。皆が正気を疑って却下しますように。
ユミオウギは切実にそう思った。




