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カミサマが助けてくれないので復讐します 3  作者: つくたん
戦いの前に
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幕間小話 楽園と地獄の話

そこは男というものにとっては楽園であり、そこは女というものにとっては地獄であった。


「おい、出番だ」

呼ばれ、顔をあげた。隣にいた少女はびくりと怯えたように身を震わせた。

ここは男にとっては楽園であった。食べるものも着るものも不足しない。酒は水のように消費されるものであり、女は道具のように使われる存在であった。

その楽園と地獄の合わせ鏡は、ある男のために用意されたものであった。金で権力を買ったような醜い男だ。

たまたま金があったので、自分の望む世界を組み立ててみた。そんな風に作られた建物であった。

そして、自分たちはそのための歯車のひとつであった。

変態趣味の男は世界各地からあらゆる種族の少女をかき集めた。それらの少女たちをあらゆる環境で"飼育"した。自分の趣味があらゆるシチュエーションで堪能できるように。

集めた少女たちの半数を着飾らせ肥えさせ宝物のように扱い、残る半数には粗末な服を着せ飢えさせ道具のように扱った。

そして自分たちはその"道具"側だった。石畳の牢の中、布一枚をどうにか身体に巻き付けただけの格好で"飼育"されていた。

「何してる。お呼びは2人なんだ、お前も来るんだよ」

びくびくと震える少女を"管理人"が苛立ったように急かす。この牢番は飼育されている少女たちの世話を任されている役割にある男のひとりだった。

怯えて震える少女は一昨日来たばかりの新人だった。その内股には白いものがついていて、まだ乾いていない。

初物を食べて満足したからあとはお前たちで適当に開発しておけと言った男のせいで"管理人"たちに乱暴され、ぼろ雑巾のようにこの牢に放り込まれたのは何時間前だったか。

ちらと見た顔はこの施設に連れ去られる前に別れた妹に似ていた。まとめて拉致され、移送の最中に馬車の滑落で死んだ。

妹に似ている少女を年端もいかぬ少女が見過ごせるか。答えは否。

「おい、聞いてるのか!」

「あん、やだぁ、待って待って」

焦れて怒鳴る"管理人"と怯える少女の間に割り込んだ。

腰をくねらせ、檻の鉄格子に足を絡めるようにすり寄った。"管理人"の視線と注意がこちらに向いたのを肌で感じ、見せびらかすように鉄格子に粘膜を擦り付けた。

「あたし、ひとりで旦那様の相手したいなぁ。あんな未開発の中古品に旦那様のモノを取られるなんて我慢ならないのぉ」

早く連れてって。そうじゃないとここで自慰しちゃうから。

そう言いながら鉄格子に腰を振ると、"管理人"はごくりと生唾を飲んだ。

「管理人様のモノも、旦那様のあとでくわえたいなぁ。それまで無駄打ちしないでくださいねぇ。濃いやつを一番奥にどっぴゅんしてほしいなぁ」

かくかく腰を振りながらそう言って、"管理人"に粘膜部分をよく見せる。そこを注視する目に欲望の色が宿ったのが見えた。

「ほらぁ、股開いてるんだから檻も開けてよぉ」

「まったく、スキモノめ」

「だってぇ、メスの悦びを躾けられたら病みつきになっちゃったんですものぉ」

媚びながら"管理人"のあとについていく。

もう牢の隅で怯える少女など誰も気にしやしない。曲がり角を曲がる直前、そっと檻の中に目くばせした。

大丈夫、守ってあげるよ。


「…あの、ね…その……あり、がと」

檻に戻ってきた自分を出迎えたのは、檻の隅で震えていた少女だった。

そっと控えめに近寄ってきた彼女は、堂々鉄格子の扉をくぐり戻ってきた自分の様子を窺ってくる。

「だいじょーぶ、旦那様のあとに6人ばかり骨抜きにしてやったわ」

性行為は嫌いではないし、複数人相手でもそれは変わらない。むしろ快楽は好きな方だ。

従順ならば苦痛を与えられることなく最初から最後まで気持ちいいままで過ごせる。相手も気持ちいいしこちらも気持ちいい。何も問題はない。

同室の新参が望まぬことを無理矢理やらされるのなら、それを望む自分が代わりにやってやろうではないか。そんな気持ちで庇っただけだ。

それに実際、少女を庇ってあえてああいう風に言ったわけではない。未開発の中古品に自分の取り分を減らされるのが嫌だったのは本心だ。

「あたし、フェーヤ。あんたは?」

「えっ……と、あの、その……サンドリア……」

「サンドリアね、よろしく」

おどおどとした新参に普段以上に明るく振る舞って握手を求めた。こんな地獄に同室する仲だ。関係は良好に限る。

自分の取り分が減るのも嫌だし、男たちは自分が相手しよう。すべてを庇いきるのは難しいが、比率を片寄らせるくらいならできるはずだ。

堕ちきった自分とは違い、この子はまだ真っ当に戻れる可能性があるのだから。この楽園と地獄の合わせ鏡の建物を脱走することさえできれば、この子はまともな人生を歩めるはずだ。

少女に妹を重ね、この少女を守ることで妹を守った気になっているだけだ、この少女を真っ当に生きさせることで自分も真っ当になれると錯覚しているだけだ。そう頭で理解しながらも、少女は目の前の小さな身体を抱き締めた。

「マトモなところに送り出してあげるからね、サンドリア」

「……うん。ありがとう……フェーヤ」


それは、万魔の悪徳が構築されるより少し前の話。

とある地のとある場所であった楽園と地獄の合わせ鏡を生きた記憶。



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