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カミサマが助けてくれないので復讐します 3  作者: つくたん
戦いの前に
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神と賢者が交わした契約

アッシュヴィトと神の間に交わされた契約。それはアッシュヴィトが滅んだ故郷を前に絶望の底で血反吐を吐きながら呪った言葉だ。

「パンデモニウムを一人残らず皆殺しにシたら…ミンナ帰ってくる」

契約を改めて復唱する。パンデモニウムの人間を一人残らず皆殺しにし、滅ぼした時、神の力によってビルスキールニルの時間は巻き戻り滅亡の前に戻る。時間が巻き戻るという特性上、辻褄を合わせるために滅んでから巻き戻りが発生するまでの間の時間は忘却される。

これらのことは残りの3人も了解済みだ。といっても、時間が巻き戻ってしまったらそのことさえ覚えてはいないのだが。

それでいいのだ。復讐が成った時、すべては清算される。奪われたものは帰ってくる。それでいいのだ。


たとえ、再生した故郷にも世界にもアッシュヴィトの存在が残されていないとしてもだ。


時間が巻き戻る時、生き残りのビルスキールニルの人間から記憶を奪うついでに世界からも一緒にアッシュヴィトの存在が忘れられる。それこそが契約の真の代償だ。

ビルスキールニル第375皇女などいなかった。パンデモニウムを滅ぼしたのは"コーラカル"であり、そして旗印は異世界から訪れた少年だけとなる。

イルートからも、バッシュからも、ラクドウからも。バルセナからもハーブロークからもアルフからもダルシーからも。ヴェインからもアルクスからも。カガリからもユグギルからもエルデナからもユミオウギからもスティーブからもヴィリからもゼフィルからも。ルイスからもシスからもニルスからも。エメットからもセレットからもネキアからもジョラスからも。ノーブル・コンダクトの3王からも。

誰の記憶からもアッシュヴィト・リーズベルトの存在は消える。さすがに神であるナルド・リヴァイアや自身が従える神たちは記憶を保持するが、人間たちは一人残らずアッシュヴィトのことを忘れるだろう。記憶だけでなく、あらゆる記録にも存在しなくなる。

そうやって消え去った後、アッシュヴィト(消え去った者)は世界のどこにも出没してはならない。名を残してはいけない。他者と深く関わってはいけない。そこまで含めて契約だ。

これは、生き残りの彼らには知らせていないことだ。イルートたちは"パンデモニウムが滅んだ時に故郷を再生する。矛盾が発生しないよう、この間の記憶は返還される"ということしか知らない。世界からの忘却のことは誰にも話していない。彼らには、多数のパンデモニウムの人間の命と引き換えに、多数のビルスキールニルの民の命が復活するといったふうに説明している。実際そうだ。間違ってはいない。世界からの忘却のことを言わないだけで。

これは覚悟の代償なのだ。自分の存在の忘却ひとつで昔日の平和な故郷が帰ってくるのなら安いものだ。関わってはいけないだけで、平和を遠巻きに眺めることは許される。それならそれで十分だ。

「……そうだヨネ」

「ええ。契約はそのように」

いつの間に顕現していたのか。気付けば樹神ラウフェイが隣にいた。アッシュヴィトが喚んだわけではない。樹神ラウフェイは石門を経由せずに自力で顕現したのである。ここが神に愛された島ビルスキールニルであり、その中心地である神殿付近だからできたことだ。ラウフェイは、この場に漂う濃い魔力を媒介にして、アッシュヴィトの解釈を借りて姿を作ってこの場に現れた。

「そうだ、ラウフェイ。聞きたいんだケド」

「何なりと。愛しき我が主」

何をしに現れたのかは知らないが、この場にラウフェイが現れたのならちょうどいい。聞きたいことがあったのだ。聞きたいことといっても神殿の中で猟矢がフレスヴェルグに問うているだろう深刻で真剣な話ではない。雑談に近いものだ。わざわざ石門を介して召喚したり、神殿を訪ねて問うことでもないほど軽い内容だ。

ちょうどいい。聞いてしまおう。アッシュヴィトは質問を舌に乗せた。

「こないだ、ミリアム諸島で嵐があったんだって聞いたヨ。トールにやらせたノ?」

ハーブロークから聞いた話だ。ある日、嵐に襲われたミリアム諸島に落雷が落ちた。その日を境にミリアム諸島を支配する精霊トレントの頑なな態度が軟化したと。

以前、この神殿にアッシュヴィトが訪れた時、樹神ラウフェイは頑なな態度をとる眷属を叱ってくれないかと雷神トールに助力を請うていた。雑談のさなかの軽口だったのでその場は流したのだが、まさか神たちはそれを実行に移したのかと。

「ご明察」

主の質問にラウフェイは素直に頷いた。同胞に請い、眷属へと叱責の雷を落とした。そうしながら、トレントに説教した。

まさか神から直接叱られるなど、しかも雷神の協力つきで。思ってもみなかった事態にトレントは震えあがり、それはもう叱っているこちらが可哀想に思うほど萎縮してしまった。

「うわぁ…コワイ……」

その場に居合わせなくてよかった。その光景を想像し、アッシュヴィトは思わず首を竦めた。

「ニルスといっていたか……彼女から色々と聞きましたよ」

ついでにその場に顕現してみせ、直接アレイヴ族たちから精霊トレントの話を聞いた。普段はどうなのかだとか、不満や要望などを。族長では立場に縛られてトレントを批判する意見は言えないだろうから、副官であるアレイヴ族の薬師の少女に。

色々と聞いた後、そのことについてさらにトレントを叱責して。トレントはもう大樹の体が種になってしまうのではないかと思うほど縮み上がってしまっていた。今思うと可哀想なことをしたかもしれない。

反省したのならよしとトレントへの説教を切り上げ、アレイヴ族たちへ、トレントがまた頑固すぎて困るようなことがあったら告げ口しに来いと密告を推奨しておいた。

「ずいぶんとトレントは束縛気味のようで……私が正しい姿を思い出させなければと」

それが神が人を守るということだ。眷属を遣わし、信徒を守護する役目を負わせる。もしも眷属が誤っていたらそれを糺す。それが自身を信仰する信徒たちに神が返せる報いだ。

その報奨に民は感謝し、さらに神を信仰する。神はそれに対して返礼を与える。その繰り返しこそが古来より交わされてきた人と神の絆だ。

「人と神の絆は正しく…そうでしょう?」

その最たるものがアッシュヴィトと神の間に交わされた契約なのだ。人は神に仕え、神は人に仕える。相互に助け合うものなのだ。そう言ってラウフェイは花が咲くように微笑んだ。

「……助けてくれなかったクセに」

ぼそりと呟いたアッシュヴィトの声は、誰にも聞かれることなく宙に消えた。

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