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カミサマが助けてくれないので復讐します 3  作者: つくたん
戦いの前に
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世界5年前説

これで疑問は氷解した。あっけない過程だった。

だが新たに疑問がわいてくる。この世界はある一点から生まれ出たというが、その一点とはいつだろう。世界5分前説での世界が5分前にできたように、いつからこの世界はできたのだろう。

「その答えは氷の中に」

その答えを授けることはしない。この世界と猟矢がいた世界は影響を及ぼし合うのかという主題から逸れる。ただでさえその問いの答えを駆け引きなく素直に出してやったのだ。主題から逸れる問いなど素直に答えるわけがない。秘密主義者のフレスヴェルグは答えを氷に閉ざす。

「ならせめて答え合わせだけでも!」

「……いいでしょう。根幹の子に免じます」

この世界の根幹を作り出した猟矢の創造力に免じて、答え合わせくらいはしてやろう。合っているかどうか照らし合わせるだけならば許そう。どこがどう違うのかまでは教えてやらないが。

頷いたフレスヴェルグにほっと肩の力を抜き、猟矢は疑問を回答に変換する。ある一点の時間からこの世界はできたのなら、その一点とはなんだ。世界が生み出されるきっかけ。それほどまでに大きな出来事。この世界がひとつの物語だとして、オープニングやプロローグとなるに相応しい事件とは。そんなの決まっている。思い当たるのはひとつしかない。

以前、クレイラでスティーブと話したことだ。もしこの世界がたった少し前に作られたとしたら。世界5分前説ならぬ世界5年前説だ。

つまり、その一点となる出来事とは。

「……パンデモニウムがビルスキールニルを襲った時」

そこがこの世界の発端だ。それ以前の過去というものは存在しない。自分たちが過去や歴史と認識しているものはそれらしく作られて吹き込まれたものだ。

そう結論づけた猟矢の回答を聞き、フレスヴェルグはわずかに相好を崩した。

「合っている……とは言い難いです。当たらずとも遠からず、ですね」

もう少し、思考をじっくりと煮詰めれば真実に至れるだろう。真実を隠そうとする意地悪な氷は溶け、中から輝く真実が現れる。

正確には、パンデモニウムがビルスキールニルを襲撃したあの日からではない。名もなきならず者たちが徒党を組んで深淵の万魔(パンデモニウム)の名を掲げた瞬間だ。パンデモニウムという集団が結成されたその日こそ、この世界のプロローグだ。ビルスキールニルの滅亡はオープニングにすぎない。

だがそれを語ることはしない。プロローグとオープニングの違いを解き、事細かに説明してやるほどフレスヴェルグは親切ではない。深雪の中に埋めて隠すことこそが氷の特性なのだから。

「さ、冗長な前置きはここまで。あとは力が語る物語となりましょう」

猟矢から視線を外し、北方を見据えてフレスヴェルグは呟いた。


神殿前の結晶たちを眺め、アッシュヴィトは物思いにふけっていた。

ここにあるのは先祖たちの肉体が魔力となって結晶化したものである。それならば自分が死んだときもまた、ここに葬られることとなる。骸は棺に入れられ地面に埋められるのだが、心臓の位置から結晶が崛起する。種から若葉が芽生えるように棺を突き破り地面に露出する。そしてそのまま伸び、柱のひとつとなる。

歴代ビルスキールニル王族の墓標であるこの柱ひとつが濃密な魔力の塊だ。自分はビルスキールニル第375代目皇女。つまりここには374本の柱と、それに連なる血族の柱が何百とある。

これらをすべて使ったとしたら。

「どんなコトもデキちゃうヨネェ……」

それこそ世界丸ごと壊すことができるだろう。だからパンデモニウムはそれを狙いビルスキールニルを襲った、のだとアッシュヴィトは思っている。

正直、パンデモニウムがビルスキールニルを襲った理由など知らないのだ。神に愛された不滅の島が滅んだというニュースでもってパンデモニウムの名を世界に響かせ、世界を恐怖に陥れるため、と世には知られている。だがそれならば、人と神をつなぐアブマイリの儀式を執り行うラピス諸島だって十分インパクトがある。神を廃するのがパンデモニウムの目的ならば、人と神をつなぐラピス諸島だってその標的になりえる。距離的にもビルスキールニルよりずっと近い。

なのにパンデモニウムはビルスキールニルを狙った。それはこの柱にあるとアッシュヴィトは予想している。死すれば魔力を結晶としその場に残すビルスキールニル人だからこそ狙われた。殺した後で死体の結晶化を待ち、エネルギーとして持ち帰るために。

だがそれは神の力によって凪ぎ払われた。ビルスキールニル王、つまりはアッシュヴィトの父親が発動させた魔法によって。

「"カタクリズム"……」

武具ではない。魔銀を利用せず自らの魔力のみで発動させる魔法だ。その複雑な魔術式はビルスキールニル王家の人間としてアッシュヴィトの頭にも叩き込まれている。

その魔法とは神の直接召喚である。アッシュヴィトでさえ"神を召喚する石門(インフェルノ)"しか召喚できない。アッシュヴィトのそれはただ、仲介する石門を呼び出すだけのもので神そのものの召喚ではない。

だがビルスキールニル王は自らの命と引き換えにそれを成し遂げた。しかも火、水、風、土、氷、樹、雷の7神の同時召喚だ。アッシュヴィトでさえ仲介する石門が精一杯。ましてや直接、それも同時に召喚することはできない。それほどのことをやってのけたのである。

そして呼び出された神はその力を振るい、パンデモニウムを返り討ちにした。だが時すでに遅く、その時点でビルスキールニルは4人の生き残りしか生存していなかったのである。

「ダイジョウブ…やり直せるヨ…」

やり直せる。大丈夫だ。神とアッシュヴィトの間に交わされた契約がある限り。

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