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カミサマが助けてくれないので復讐します 3  作者: つくたん
戦いの前に
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真実は氷に訊ねよ

「いいこと?」

いいこと考えた、とは。アッシュヴィトの言ういいことというのはたいてい悪戯のようなものだが、この場面でいいこととは。

「うんと、つまりサツヤは答えが得られればイイんデショ?」

世界の成り立ちに関わるほど重要なことだとさっき言っていた。その手段を得るために"蛇の魔女"のもとを訊ねたい。

だが、世界の成り立ちに関わるほど重要なことを聞きたいのなら、別に"蛇の魔女"でなくとも他の人物でもいいではないか。

「他って、ユミオウギさんでも答えられやしないだろうって話なのに」

世界のあらゆる情報に精通し、知らないことはないと讃えられる世界最高の"観測士"ユミオウギでも猟矢が抱える疑問には答えられないはすだ。情報の分野が違う。ユミオウギは人と人の間で交わされる情報に詳しいだけだ。世界や神相手の話は神秘学の分野になってくる。ユミオウギは神秘学など修めていない。

それならばまだ神秘学をかじっているぶんユミオウギよりスティーブの方が猟矢の疑問の相談相手くらいにはなれるだろう。ただし答えは得られないだろうが。

「いやいや。あのふたりじゃナイヨ」

忘れたのかい。アッシュヴィトは気取って言った。

まるで教師が生徒に説くような口ぶりでアッシュヴィトはぴんと立てた指を振る。

「ボクがなんだか忘れたノ?」

アッシュヴィトはビルスキールニル皇女だ。ビルスキールニルは神に愛された島。神と人がもっとも近い場所だ。その王族ともなれば神と直接対話することができる。

と、いうのは今さら言うまでもないだろう。主題はその次の話だ。

「サツヤ、だいぶ前にユグギルに教えてもらってたデショ? 属性元素とその性質」

世界を構成する属性元素にはそれぞれ特性がある。雷の属性元素は憤怒と罵倒を象徴しその最たる雷神はその性質を反映して怒りやすいとかいう話だ。

「はい、ココで問題デス」

水の属性元素は恵みと知恵。炎は再生と破壊。風は自由と気まぐれ。土は堅牢と怠惰。樹は束縛と希望。

属性元素にはそれぞれ特性があり、神はそれを象徴している。アッシュヴィトが教師ぶってそらんじる。

「では、氷の属性元素はナァニ?」

「えっと……あ!」

氷の元素が司る特性。あらゆるものすべてを氷に閉じ込め自らのものとする氷の元素が象徴するものは独占。

そして、凍らされたものは劣化することなく不変である。氷の中でなら万年だろうと状態が変わることなく保存できる。

永久に変わらない不変の概念。それが氷の属性元素が司るものであり、わかりやすく言い換えるならば。

「よくできマシタ。"氷神は真実を司る"。…つまりは、そういうコト」

氷の中に閉じこめたものが万年変わらず存在できるように、真実もまた不変のもの。ゆえに氷の元素は真実を司る。

そしてその氷の属性元素を支配する氷神もまた真実を知っている。あらゆるものの真実はすべて氷神の手の上だ。氷神に知らないことはない。

「ボクのフレスヴェルグでもイイんじゃナイカナって思うんだケド、どうカナ?」

あのろくでもない"蛇の魔女"に手段を訊ねて示された道筋をたどるより、真実を司る氷神に直接聞いた方がずっと早いはずだ。

おそらく"蛇の魔女"もネツァーラグが真実に至る手段として氷神との接触方法を教えたはずだ。具体的にどうしたかは知らないが、何らかの手段でネツァーラグと氷神を対話させた。そしてそこからネツァーラグは世界の真実を知ったのだろう。

"蛇の魔女"がネツァーラグに氷神との接触方法を教えたのなら、猟矢の問いに答える手段もまた氷神への接触方法の提示だろう。えげつない代償つきで。

それならば神を従えるアッシュヴィトが氷神を呼び出せばいいだけだ。どうせ氷神に聞くことになるのだから結果は同じだ。

「なるほど!」

「ただ、チョット問題があってネ……」

無視できるが、無視しきれない問題だ。

というのも、今現在、自らの神殿を置くアルフェンド国が消し飛んだことで、ナルド海の番の雌竜ナルド・レヴィアがエルジュ近海に身を寄せている。神殿自体は無事なのだが、アルフェンド国には未だ濃密な魔力が渦巻いている。そんな地域に竜神が長く滞在すればどんな影響が出るかわからないので退避している状態だ。

荒ぶる雄竜ナルド・リヴァイアがいるミーニンガルド周辺は荒波のせいで落ち着かないだとかでエルジュ近海を仮宿としている。

そしてそのナルド・レヴィアは水神とすこぶる仲が悪い。

水の元素は恵みを象徴するが、その範疇には寵愛の意味も込められている。水神は自らの眷属にも寵愛を注ぐ。その中にはもちろんナルド海の番の竜も含まれている。

ちなみに水神は女神である。地域ごとで信仰のかたちは変わり、神の解釈も変わるが水神だけは必ず女神で解釈される。

つまり雌竜は夫である雄竜に水神が寵愛と称してちょっかいを出すことを嫌っている。平たく言えば嫉妬だ。

「…っていうのは知ってるよネ?」

ミーニンガルドでの戦いの際、やむを得ず番の竜の前で水神を召喚したが、その時は内心肝が冷えた。

女の嫉妬は怖い。ふだん穏やかなぶん、ナルド・レヴィアの嫉妬の怒りは凄まじい。

という話は以前にした。猟矢も知っている知識だ。話に関わってくるのはここからだ。

「ほら、氷って水からできてるデショ? だからなのか、ふたりとも仲がよくてネ…」

お互いに、互いの気配を濃密に漂わせている。恋人がそれぞれ相手のにおいを染み付かせているように。

アッシュヴィトが神話より概念を解釈し、形作ったふたりの神はそれはそれは仲がいい。とても。

「ボクがココでフレスヴェルグ出したら、気配に反応してナルド・レヴィアが怒る……カモネ」

どれほど抑えても、召喚の瞬間だけは神が身にまとう力があたりを走る。魔力といってもいいかもしれない。存在感があまりにも強すぎて、自然と空気中の属性元素が反応してしまうのだ。

ここに神が降りたということを知らせるため、目に見えない精霊たちだって騒ぎたてる。目に見えないほどか弱い存在でさえ感じ取れる強烈な気配に海竜が反応しないわけはなく。そしてそれが自分が嫌う水神の気配を漂わせていたら。

あの女神の気配を漂わせているものに夫が手を出されないかとナルド・レヴィアは騒ぐだろう。

そしてそれはすごくまずい。海を守護する海竜が怒り暴れれば、ナルド海を航行する船はどうなるか。

「……というワケで、ココじゃ喚ぶのはムズカシイんだヨネェ……なので!」

ぱん、とアッシュヴィトが両手を合わせた。

「ボクも喚ぶのメンドウだし、直接会いに行こう!」


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