エピローグ カミサマが助けてくれないので復讐しました。結果がこれです。
もはや何もない。世界は終わった。
世界は完全に変わり果てた。風景のことではない。大陸の形が変わるほどの破壊が世界中でなされたが、そんなものは些細な変化にすぎない。
変わり果てたのは魔力のバランスだ。魔力は人間の体内に宿るだけでなく、大気中にも微弱に流れている。空気の構成に酸素や二酸化炭素が含まれるように。
それは精霊や神の眷属たちにとっては食事に等しいものだ。主を持たぬ精霊たちは空気中の微弱な魔力を取り込み、糧とする。
その魔力が完全に枯渇した。訪れるのは精霊の餓死である。神の眷属たるクレイラ・セティやナルド海の番の海竜も例外ではない。むしろ生物としての格が高いからこそそのぶん多くの糧を必要とする。
絶望に満ちた魔力に引きずられ暴走した後、ようやく正気に戻った眷属は自らの行いに加え、飢餓に苦しむこととなる。
少しでも大気に魔力が流れている地を求めて彼らは宛てもなくさまよった。そんな場所、地上のどこにもありもしなかった。さまよい尽くし、彼らは飢えて死んでいった。
そうして、精霊や神の眷属という存在は地上から消えた。
世界中で武具が暴走した。設定されている機能を大きく逸脱し、能力を際限なく拡大させて。
もはやそれは悪夢の蹂躙であった。どんな者も武具を制御することはできなかった。
武器に変化するものはただその場に顕現するだけであったが、急に飛び出した武器に誤って刺される術者が続出した。
魔法は本来ならばありえない出力で起動し、破壊をもたらした。たかが火打ち石代わりの武具が町をひとつ焼いた。
昨日まで相棒と呼んでいた精霊たちは理性を失った状態で召喚され主を襲い、そしてそのまま飢えて死んだ。
次元は滅茶苦茶に接続され、あるいは途切れ、通行を不能にした。破壊から逃れようと転移武具を起動させた者は、腕1本だけが転移先に送られるなど、体の一部だけが転移された状態となった。首だけが転移されてしまって即死した人間もいた。
通信などもはやどこにも繋がらなかった。術者が望む先に接続されることはなく、たまに繋がったとしてもそれは接続先ではないどこかであった。悲鳴だけが聞こえていた。
それらの武具の暴走は、まるで魔力というものを食い尽くさんとするかのようだった。
世界に満ちた魔力をすべて消費しきるまで、その暴走は続いた。
これは後に"大崩壊"と呼ばれるだろう。
世界が変わり果てる大変革だ。組み上げられた舞台をぶち壊し、更地にするかのような。
瓦解した世界はバランスを失った。これからはバランスを失った状態を正常として再構成されるだろう。
再構成された世界では、魔法も魔力も武具も遺物と化す。永遠に失われたものとして語り継がれる。
もはや神に居場所なし。おめでとう復讐者よ。神秘の存在はこれにて殺される。
「呪わしく愛しき我が主よ、永遠に」
神様が大好きだった。神様を信仰していた。信じればそのぶん救われるのだと信じて。
だけどあの日、神様は助けてくれなかった。神様は無情に見下ろすだけだった。
私の代わりに復讐などしてはくれなかった。だから剣を手に取って自分で復讐することにした。
その姿を哀れみ、すべてが終わったら救済してくれると言った神様の言うことに従って。神様すら道具として使ってひた走った。神様の主となって恨みを晴らした。
その結末がこれだった。巻き戻すだけでは再び運命がめぐってくるのだと。やっぱり神様は助けてくれなかった。助けないところまで忠実にあの日をなぞった。
馬鹿なことだ。少し考えれば気付いたこと。神様は人間じゃない。人間の情の機微など理解してはくれない。言葉は厳密にさばかれる。巻き戻すとは比喩ではなく、そのままの意味なのだ。
それに気付かず、神様に期待して救済を願った。何が"灰色の賢者"だ。馬鹿馬鹿しい。ただの愚かな小娘だったじゃないか。
「これがボクの罪だというのなら、なんて……」
「仇を皆殺しにしたら、あの日に巻き戻して」
そう願ったあの日。剣を手に取り復讐を誓ったあの日。
この瞬間、賢者は愚者になったのだ。




