第8話 女神様が見ている
第2章開幕です。
「はぁ、まさかこんなことになるなんて」
天界で、全てを見通していた女神様はため息をついた。
転生させた少年に、成長の兆しが感じられないからだ。
生前の彼は、絵にかいたようなダメ人間だった。
勉強はしない。
運動もしない。
地球の酸素を消耗させるだけの、二酸化炭素製造機だった。
だがそれは環境のせいだと、女神は思っていた。
未来に希望が見いだせず、努力しても才能のある人間にはかなわない。
そんな思いがあるから、何もしないのだろうと思っていた。
だから、彼に力を授けた。
苦痛や努力が、必ず報われる能力を。
きっと彼は生まれ変わる、自らを高める喜びを知った彼は、日々の鍛錬で力を蓄え、そしていつの日か魔王を倒してくれる……そう信じて疑わなかった。
だが現実は、そうではなかった。
彼は、筋金入りのダメ人間だった。
女神の筋書きでは、ドラゴンに岩場まで追い詰められた時点で、女の子を庇ってドラゴンと対決。
ズタボロになりながらも、少女の声援で立ち上がり竜を倒す。
きゃあ素敵、抱いて……となる予定だった。
だが彼は、少女を犠牲に不意打ちで倒してしまった。
「あなたが、そんな態度をとるのであればもう容赦しません」
女神は、彼に与えた様々な恩恵のうち、いくつかを取り上げた。
例えば魔力。
膨大な魔力を与え、回復魔法の使用回数を増やしていた。
例えば防御力。
即死級の攻撃を受けても、数秒はこらえられるようにしていた。
そして……名前。
あの世界では、名前はとても重要な意味を持つからだ。
「ああ、主よ、あの者に難行苦行と艱難辛苦を与えたまえ」
女神は、彼の行く道がより険しいものになるようにと願った。




