第61話 シンク目覚める
突然ですが最終回です。
「あなたは、死にました」
「はい」
俺は初めて死んだときと同じように、天界の神殿でマーテルにそう告げられた。
俺がデュルンダルを起動させた後、みんなはオーディンの協力を得て雪原地帯を無事抜けられたようで、今はとある農村で厄介になっているらしい。
俺はというと、全身の肉や骨までもが液状になるまで分解され、万に一つも再生が不可能な状態になってしまったようだ。なので俺の現在の格好も、赤黒いスライムの様な不定形なものになっていた。生存率を少しでも上げようと、全身にダメージを分散させてはみたが無駄だったようだ。
でも不思議と不快感は無い、それどころか今の姿こそが本当の自分なのではと思えるほどだ。
そうか! 俺の前世はスライムだったんだ!
「その違和感についても、今から説明いたします」
「げ! また心を読まれた」
「ふふふ、村の皆さんからたくさん天力を補充できましたので」
マーテルは、とても柔らかな笑顔でそう答えた。
「説明の前に、まずはわたくしども天界の民の不始末について謝罪しなくては。あなたの自堕落な性格は、あなた自身の責任ではありません、あなたに取り憑いていた悪魔の仕業だったのです」
「あ、悪魔ぁ!」
怠惰の悪魔、それが俺に取り憑いていた悪魔の正体だ。
そいつは人々を堕落させた罪で地獄に囚われていたが、一瞬の隙をつき地獄を抜け出し、天使達から身を隠すため、失われた力を取り戻すために俺の魂に住み着いてしまったらしい。奴は俺から気力を奪い去り、最終的には干からびた俺の体を突き破って地上に顕現し、地球人を自らの糧にするつもりだったようだ。
ジジイが俺をフグで急死させたせいで、計画は台無しになったみたいだけどな。
「ちなみにあなたのおじいさまは、イソギンチャクに転生したそうです」
「そりゃどうも」
棚から牡丹餅で悪魔入りの俺の魂を取り戻すことが出来た天界の神々は、俺と悪魔を引き離すためにある計画を立てた、それが俺が任された魔王退治だったみたいだ。
ちなみにマーテルは、ごく最近までその計画を知らされずに俺に魔王退治をさせていたらしい。悪魔を油断させるため、素の状態で俺にキビキビ働かせようとする必要があったので、何も知らないマーテルを俺の担当にしていたようだ。
「あなたと悪魔の魂は強く結びつき、無理に引きはがすとあなたの魂が、最悪消滅してしまう危険がありました。なのであなた自身を悪魔に負けない強靭な魂へと成長させ、そのうえで引きはがし作業を行うはずでした」
「でした?」
「はい、作業を行う必要がなくなったのです。最後の戦いのとき、あなたは自らの生涯を強く後悔しましたね、その強い思いが怠惰の呪いを吹き飛ばした、いえそれどころか、あなたの魂は悪魔の力を凌駕し自分の物にしてしまったのです」
え!? 俺悪魔と合体したの? やべえじゃん、俺地獄行じゃん。
「心配には及びません、あなたは力の管理がきちんとできていますので。――生と死、破壊と創造、怠惰と勤勉、どちらも度が過ぎれば世界を滅ぼす毒となります、その毒を生み出す存在を我々は悪魔と呼び裁きを与えているのです。あなたならきっと、優秀な怠惰の神になれますわ」
なるほど毒か、俺は今まで怠惰の毒に侵されていたが、俺がそれを制御化に置いたことで薬に変わったわけか、だからこんなに体が軽いんだな。
「理解していただけましたか……これで、もう思い残す事はありません」
「え!?」
マーテルの体が、うっすらと透け始めた。
「ふふ、わたくしは少々働きすぎたようですね。下界への過干渉、天力の過剰放出…………わたくしの勤勉さを天界は毒と判断したようです」
「そんな! まさか地獄に!」
マーテルに続いて俺の体も、消え始めた。
「あなたはこれから新たな生物として、下界に生まれ直すのです。そしてゆくゆくは神々の一柱として人々を導く存在になるのです、他人の心配などしている場合では――」
「なんでだよ、頑張った罪で地獄いきだと! 教えてくれマーテル、俺はどうすればいい、どうにかならないのかよ、それ!!!」
他にも聞きたい事は山ほどあった、魔王はどうするつもりだとか、俺の来世についてだとか。でも今はそんな事はどうでもいい、マーテルを何とかする方法を知りたい。
「分かりません」
「そっか」
それが、今世での最後の会話になった。
分かりません……か。
だったら俺が見つければいい、俺は文字どうり生まれ変わるんだ。
俺はシンク、神の試練を乗り越えた男だ! 俺はできる、俺ならやれる、
必ず方法を見つけ出し、マーテルに自由を取り戻して見せる!
――ドォーーーン!
稲妻のような衝撃と共に、俺の第3の人生が幕を開けた。
タイトルと路線の変更を行う為、本作はここまでとなります。
この続きは、新作の形で現在執筆中です。
引き続き、シンクやカンナ達の物語をお楽しみください。




