第60話 死して屍拾うもの在り
感想、ブックマーク、ありがとうございます。
嬉しさで心臓が飛び出しそうです。
魔人オーディン――自身の知的欲求を満たすため、邪神と契約を交わし常人の何倍もの時を生きた存在。その能力は、現魔王に匹敵するとも凌駕するともいわれている。
そんな男が、俺達の前に現れた。
なんでだよ、やっとこさ命の危険から脱したと思ったら、何でこんなのと鉢合わせするはめになるんだ。
「どうした、答えぬか人間」
「し、しちゅ、失礼しました、あ、あなたのりょ、領土に用はありません。とある魔族の転送魔法に巻き込まれてしまい、この土地に放り出されてしまったのです」
俺は、オーディンに経緯を素直に話した。
戦っても、万に一つも勝ち目はない。だったら、それ以外の何かで何とかするしかない。幸い彼はこっちの話を聞く気があるようだし、正直に、可能な限り丁寧に経緯を話せばきっと何とかなる! ……なるはず! ……なったらいいなぁ。
「そうであったか、雪原を抜ける足を用意する、即刻立ち去れ」
「お心遣い感謝します」
ふぅ、話の分かる相手で助かった。
「いや待て、そこの女は女神だな気配で分かるぞ!」
ぎゃー! 邪神との契約により、女神は生かしておけん! とか言われるパターンだこれ。
「邪神との契約により、女神は生かしておけん! 死ぬがよい」
ほらやっぱり―!
――グシャリ
オーディンは、マーテルの胸を刺し貫いた。
「え? ちょ? あ!?」
「契約を違える事は、我の死を意味する。故に女神を見逃す事は出来ぬが、タダの旅人を見逃す事に問題はない、行け」
オーディンが召喚した2体の狼が、俺達に背中に乗るように促した。
俺は居ても立ってもいられなくなり、力の限り走り出した。
――デュランダルの元へ。
「オーディンよ、あんたの契約は女神を殺す事、だったら死んだ後どうなっても契約には関係ない! 違うか?」
「その認識で間違いない、だがどうするつもりだ?」
「へへ、なら無駄死にしなくて済みそうだ、やれデュランダル!」
――ゾグンッ
俺の呼びかけに反応して、デュランダルが力を発揮し始めた。
感覚があったのはほんの一瞬、そこから先は、目の前が真っ暗になり世界から酸素が消え去ったみたいに肺の奥が静かになった。
痛みもない、苦しみもない、足の先からバターのようにとろけて、自分が自分でなくなっていくような感覚。
――取り返しのつかない事をした……。
周りの世界も、自分自身さえも消えてしまう圧倒的孤独感。心の隅の隅まで、後悔の感情さえすり潰すように俺はこの世から消えた。
次回 シンク目覚める、お楽しみに!




