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第58話 雪原の盗賊団、壊滅! 前編 

「すまねえマーテル、あたいがもっと強けりゃこんな事には」

「……」

「だんまりか、はっ! 当たり前……だよな」

 テニシラは拘束された状態でマーテルに話しかけたが、彼女はうつむいたまま答えない。


「情けねえなぁ、目の前で師匠を殺されて、もうこんな惨めな思いはたくさんだ! って、鍛えて鍛えて鍛えまくってきたのに……それでこの様かよ……」

「ん、う~ん、あ、おはようございます」

「てめ! 寝てたのかよ、こんな時に!」

 騒ぎが大きくなったので、見張りの盗賊の視線が鋭くなった。なので、これ以上神経を逆なでしないよう、声を落とす事にした。


「テニシラさん、しばらく横になってはいかがでしょう、お疲れのようですし」

「な!? この状況でよくそんな事言えるな!」

「――脱出のチャンスはきます、それまで体力を回復すべきでは?」

 マーテルの頭の中には、こんな状況でも堂々とゴロゴロしているシンクの姿があった。初めはその姿にイラつきもしたが、もしかしたら間違えているのは自分かもしれない、そんな考えがふと浮かんできた。

 今の自分は歩けるだろうか? 走れるだろうか? 助かる可能性を増やす行動は何だろうか? しばらく考えた結果、何もしないで体を休める事が最善だと判断した。


「恐らくシンクは、洞窟内から一気に加速をつけて飛び出してくるでしょう。そこにうまく組み付く事が出来れば、全員無事に逃走が可能なはずです」

「OK、あたいは手が無いから、あいつに三角絞めを食らわせてやるさ」

「怪我をさせないようにお願いしますね、目的は逃げる事なのですから」


 作戦を共有したところで、2人はしばらく休息をとる事にした。

 2人の様子を見て見張りの男は、ついに諦めたようだと完全に油断していた。


 だから対応できなかった、突如噴き出してきた突風に。

 洞窟の奥から噴き出してきた突風が、入り口フロアにいた盗賊達をまとめて外の断崖絶壁まで叩き出した。その場に残ったのは、横になっていたマーテル達と、足にオーラを纏わせ突風を耐えきったリーダーの男だけだった。


「え? 夢か? 急に風が来たような」

「今のはまさか、邪神ベルゼブブが放つと言われる冥界の風! なぜそのようなものがこんな所に!」


 コツッ、コツッという靴音がどんどん大きくなり、洞窟の奥から、黒いオーラを纏った少年と、激しくブレイクダンスを踊りまくる芋虫が現れた。


「な!? 【オーラキック】! 縄は解けた、さ、マーテル」

「はい! シンク、早く逃げましょう、でないと「いや、逃げない」」


 そう言って、シンクは盗賊の目の前に立った。

 そして、思いっきり顔面を殴りつけた!


「……見た目以上に馬鹿だったようだな、【オーラガントレット】!」

「け、かはっ……」

 【オーラナックル】のさらに強化された一撃を腹にくらい、空気を吐き出すシンク。さらに、くの字に折れ曲がった体をへし折らんばかりに、頭を強打され地面に頭を打ち付けられた。


「……終わったな」

「いいやまだだ、セット――【武人】」

 シンクの体が赤の光が覆い、盗賊の顎にアッパーが炸裂した!


「効かぬわぁ、【ドラゴンブロウ】!」

「セット――【黒鉄】【黒鉄】【黒鉄ェ】!」

 シンクの体を青い光が覆った直後、盗賊の最も強力な一撃が彼を襲った。ゴウンと金属を殴りつけたような音が響き、シンクは後ろに吹き飛ばされ壁に叩きつけられたが、素早く傷を癒すと再び距離を詰め攻撃を繰り出した。


「何が起こっているのですか、【武人】も【黒鉄】も、どちらも魔族の技のはず、なぜあなたが使えるのですか?」

「あんなガチで殴りあうなんて、あいつは本当にあいつなのか?」

 困惑する2人をよそに、シンクは更なる大技を繰り出そうと距離を取った。


「【絶命剣】、こいつで終わりにしてやる」

「いけない! シンク、その技は!」

 マーテルの制止を無視して、シンクは黒く染まった拳を敵の腹に叩きこんだ。オーラの守りを破壊し、敵の肉を裂き骨を砕いたところで、シンクの左手は砕け散ってしまった。

 それに引き換え、敵の腹は見る見るうちに元に戻った。


「ああー! 今の頼りはお前だけなんだぞ、何やってんだよ!」

「お仲間の言うとおりだ、まったくお前は「【絶命剣】」……ゴフッ、な、なぜ!?」

「「え!?」」

 シンクとキルモーフ以外は、何が起こったか分からないといった表情をしていた。シンクが今度は右腕を犠牲に【絶命剣】を放ったのだが、その一撃はなぜか癒える事無く残った。


「ははは、はぁ、終わった……あたいら生きてるよぉ」

「シンク、今が好機です、彼らの縄張りから脱出しましょう」

「それは無理だ――奴を倒さない限り!」


 シンクが指さした方向から、何かが高速で近づいてきた。その何かは雪原から跳ね上がり、まるでミサイルのような勢いで、シンク達のいるフロアまで突っ込んできた。

 何かの正体は、鎧をまとい背中と腰に剣を携えた、大柄のスケルトンの剣士だった。


「お、お頭ぁぁ……」

「時間稼ぎご苦労、後はワタシがやろう」


 スケルトンの剣士は、腰に下げた剣を引き抜き構えた。

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