第57話 女の嫉妬で、壊滅するパーティーは多い(教訓その5)
次はお昼ごろに投稿予定です。
「えぇいクソ、どうなってやがる! 何で急に眠らなくなった! 何で敵がジャンジャン湧いてくるんだ!」
『大変! 赤ちゃんの震えが止まらないわ!』
「後だ後! とにかく今は――」
「こっちだ、囲め囲めぇ!」
あいつらに捕まれば、入り口まできっと運んでくれるだろう。でもそれじゃあ意味がない、奴らに捕まらないよう包囲網を突破し、2人を助けてこの場を離れる以外に助かる道は無い。
……もしかしたら、俺が逃げ回ってる間にもう殺されてるかもしれない。いや! 女性相手にそこまでひどい事はしないだろうし、うん、今は全員で助かる事だけを考えよう……。
「【眠り攻撃】出力最大!」
俺を中心に、眠りの波動が辺りを覆った。敵は一瞬体勢を崩しかけたが、すぐに体勢を立て直してきやがった。
だが一瞬あれば――【ホバーステップ】。
【空中歩行】と【インパクト】を同時に発動させ一気に加速、敵の包囲網の突破に成功した。
その後も何度か追手をかいくぐり洞窟の奥へ奥へと進み、毒蛇デッドコブラや、吸血蛭ブラッドワームの群生地まで逃げ込んだ。後ろから追手の悲鳴や、引き返していく足音がここまで響いてきた。
ふぅふぅ、これで一息つける――痛い噛まれた。
「毒は受けないけど、気休め程度に毒消しぬっとくか」
お、本当に痛みが消えた気がする、さすがテニシラさんの薬。
よし、一息ついたところで状況の整理だ。
洞窟入り口付近にあった俺達の拠点が、この前戦った盗賊団に見つかった。マーテルとテニシラさんは奴らに囚われ、俺とキルモーフ、あとこのちっこい謎生物だけが逃走に成功。囚われた2人を助けるため外に向かおうとしているが、敵の数が多くて逃げ回っていると。
『どうしよどうしよ! この子全然動かないの!』
「黙ってろ! 生きるか死ぬかの瀬戸際なんだぞ!」
『でも……でも』
「……目の前の問題から何とかするか」
恐らく体温の低下が原因だろう、でもこんな場所じゃ火も起こせないし、第一火種がない。
そもそもこれ以上、面倒見なくていいんじゃないか? 人里で換金するために育ててただけだし、俺達だってどうなるか分からないこの状況で、こいつを守る理由は無いんじゃないか?
「こいつはもうダメだ……捨てていこう」
『うう、ごめんなさい、あたしのせいで』
そっか、この子の親とこいつは親友同士だったっけ。
「お前のせいじゃない、悪いのは全部盗賊た『違うの、あたしのせいなの!』」
次のセリフに、俺は耳を疑った。
『あたしが奴らをここまで連れてきたの! あの女共が何とかなれば、ダーリンと2人っきりになれると思ったから!!』
「――はは、冗談はよせよ」
『嘘じゃないわ、ダーリンってば全然あたしのこと見てくれないし、あいつら狩りをするからとか見張りが必要だとか言って、あたしとダーリンを引き離すし』
「――――冗談はよせ」
『でも……そのせいでダーリンまでこんな目に合わせちゃったし、この子も冷たくなっちゃったし。……ねえ償いがしたいの、あたしに出来る事なら何でもする、だから許――』
「じゃあ死ねよ、このクソ芋虫が!!!」
俺は怒りに任せて、こいつの腹に腕を突っ込むと、あらん限りの力で腹綿を抉りだした。それでもケロッとしてやがったから、何度も何度も壁に頭を叩きつけてやった。
『グフゥゥ、痛い、死んじゃうぅ』
「それが赤の他人だったら、笑って許してやったさ。けどてめえは誰を巻き込んだ! 俺の仲間だ! それでもまだ、てめえに壮大な目的があったならまだ許せた! 俺と2人っきりになりたかったとかいう、クソ下らねえ理由が犯行動機な奴をどうやって許せってんだよ!!」
最低だな、俺って……。
一番許せないのは自分だ……。
こいつの……大事な仲間の気持ちを察してやれなかった、そして、仲間のピンチに逃げ惑う事しか出来てない自分自身だ!
囚われた仲間の元に近づく事さえできない自分が、惨めで、悔しくて、情けなくて、けどそれをどうしようもないから周りの誰かに当たり散らして! そんな下らない事しかできてない自分を殺してやりたいほど憎んでる、……ちくしょう!
「うう、ごめんよ、キルモーフ……全部俺のせいだ……もしもあの時、いやもっと前、……もしかしたら、全部……間違えて?」
『ダーリ――、マスターしっかり、奴らがきたわ逃げなきゃ!』
「観念しやがれ小僧! 今度は毒消しも用意してきた、今度こそ終わりだ!」
――冥力の解放を行います、人体への負荷にご注意ください――




