第56話 一家に1匹キルモーフ(電話や収納にとっても便利)
「お、ここにしよう」
『ダーリン登れないわ、抱っこして』
「んなわけあるかよ、入り口の断崖絶壁のぼれて!」
洞窟内を探索すること数分、体育館のようにひらけたフロアを発見した。更にフロア内を探索していると、天井付近にさらに奥へと通じる横穴を発見したので、そこに潜り込んだ。
ここなら、見つかりにくいだろうし、仮に見つかっても登ってくるところを蹴落としてやればいいし、いざとなれば奥に逃げられる、かなりいいポジションだな。
「よし話してくれ、昼寝してる間に何があったか」
『あのね、あいつらが突――』
『あ~あ~、ん、聞こえるかね勇者君。君の仲間を預からせてもらっている、開放してほしければ今すぐ我々の元に来い、以上!』
キルモーフの体表が小刻みに震え、今の言葉を俺に伝えてきた。
キルモーフは、糸電話のように振動を利用して仲間と意思疎通ができるらしい。それを人間が利用して、遠くにいる相手と連絡を取り合うキルモーフ電話という技術があるそうだ。
『で、さっきの続きだけど、みんなで狩りから戻ってのんびりしてたら、突然あいつらの足音が聞こえてきたの。あいつら全然攻撃が効かないって聞いてたから、ダーリンだけでも逃がそうとお腹の中に【収納】してここまで逃げてきたの』
キルモーフは洞窟内にたくさんいるし、野生のキルモーフだと思って見逃されたのか。ただこれは結果論だけど、あいつらに【眠り攻撃】が通用するなら、その場でたたき起こしてもらってた方が良かったんだがな。
「とにかく入り口付近まで戻ろう、ここにいても何もできない」
『…………』
「……まさか、道覚えてないとかいうなよ」
『……てへぺろ』
「はぁ、分かった、他の仲間と連絡してくれ、外まで案内してもらうから」
俺の指示に従い、キルモーフは仲間と連絡を取り始めた。
一方その頃盗賊達は――。
「へへへ、いい様だなぁ、随分鍛えてあったみてえだが、おれ達は常にお頭に守られてる。しかもこの辺はおれ達の縄張りよぉ、逃げ切れるわけねえんだなぁぁ」
「ぐ! こんちくしょぉ、うぐ!」
「テニシラさん抑えて、出血がひどくなってしまいます」
盗賊達は2人を丈夫な縄で縛りあげて、シンクから反応があるか待っていた。
彼女達に、自力で脱出する余裕は無かった。マーテルは端から天力切れで戦力外、テニシラも今日までに用意しておいた、ありったけのアイテム、そして気力と体力を振り絞り逃げ続けて、それでも数と地形に阻まれる形で捕らわれているからだ。
おまけに彼女は、再び抵抗されないようにと両腕を切り落とされている。
「しかし、うまくいきますかねえ、こんな子供だましが……」
「ダメなら手当たり次第に探すだけだ、頭が言うには奴は女神の加護を受けた勇者だそうだ、何としても今のうちに潰しておかねば」
彼らに、外を探す素振りは微塵も無かった。先日の戦いで覚え達の匂いを頼りに、ウルフ達を走らせたところ反応があったため、中にいる事は間違いないと分かっているからだ。
「おい! 芋虫達が動き出した、こっちから反応があったぞ!」
「バカな奴め、こんなに簡単に居所を教えてもらえるとは」
この広大な洞窟をしらみ潰しにする事が現実的ではない事は、彼らも分かっていた。なので彼らは、キルモーフの習性を利用しようと考えた。キルモーフから洞窟中にメッセージを伝える事で、シンクをあぶりだそうと考えたのだ。
作戦は成功した、キルモーフの反応を調べれば、シンクの居場所の大まかな位置は把握できる。後はその場所を取り囲むように、人員を配置すれば袋のネズミというわけだ。
「時が来れば指示を出す、女共はいつでも始末できるようにしておけ!」
「ガッテンでさー!」
「総員配置に付け! 奴は催眠術を扱うようだ、気つけ薬の所持を忘れるな!」
リーダーの号令に従い、盗賊達の勇者狩りが始まった。
明日の投稿で、盗賊団は壊滅予定です。




