第54話 謎生物は【眠る】を覚えた
「もくもく、ぷえっ」
「ほら、こぼれてるぞ」
ダンジョンコアの破壊から3日、俺達は今、洞窟内に作られたテニシラさんの拠点で暮らしている。拠点周りは少し寒いが、奥に行くほど魔物の動きが活発になるため安全の為に我慢している。
マーテルの提案で、例の集落に戻る選択肢も挙がったが、ぶっちゃけ人里よりここの方が安全な気がしてきている。外は吹雪で、強力な魔物と不死の盗賊団が徘徊している危険地帯だ。
ここも毒虫や毒蛇がわんさかいたりするが、片手で捻ってやれるぐらい脆いし、拠点周りの寒い所では見かけないし、テニシラさんが毒消しの調合に成功したため、よほどの事が無ければ死ぬ心配はなくなった。
「かぷかぷ、ぱくぱく」
「無理に詰め込むと体に悪いぞ」
それとこの謎生物を、死なせるわけにはいかない。この謎生物、戦闘のショックで予定より早く孵化したらしく、本来備わっているはずの機能がいくつか欠けているようだ。
消化器系が弱く必要な栄養が摂取出来ていないうえ、寒さへの耐性が低く常に震えているため、せっかく作ったエネルギーを発熱で捨てている状態らしい。とにかく今は、暖を取らせて震えを抑えてやるぐらいしか対処法がない。
今も俺は、こいつに付きっ切りで毛布をかぶり焚火のすぐそばで、テニシラさん達がせっせと運んでくる魔物肉を一緒にかじってるところだ。
いやー子育てって大変ですなー(棒)。
「ん~~ん~~」
「じゃあな、いい夢見ろよ」
食事が終われば、次は睡眠だ。よく食べて良く寝る、それで大きくなるんだから赤ん坊って楽だよな~。俺なんて、授業中も欠かさず寝てたのに結局大して伸びなかったのにさ。
「ん~~ん~~」
「どした、眠れないのか?」
「ん~~ん~~」
そういえばこいつ、自分から目をとしてるところ見た事ないな。ゴミが入ったり、指で目玉を突っついたりしたらまぶたを降ろすけど、自分の意志で目を閉じてるところを見た事がない。
はっ! もしかしてこの3日間、一睡もしてないのかこいつ。
「そりゃ大きくならないわけだ、ちょっと待ってろ」
「ん~~ん~~」
でもどうするか、【眠り攻撃】は酒で泥酔させるような技だから、子供には使いたくないし…………そうだ! 【消音】を改造して【消灯】とか出来ないだろうか。きっと焚火の火が明るすぎるんだ、だから魔法で光を抑えればこいつも寝てくれるはず。
「よっしゃ完成、【消灯】」
……真っ暗にはならなかったが、豆電球が残ってる程度の明るさになったしいいか。いやこれで完璧なんだ! 焚火が見えなくなったら火傷の元だし、俺の深層心理がその点を考慮したに違いない。
「ん~~ん~~」
「まだ駄目か……なら次だ」
俺はこいつを胸の上で抱き抱え、深呼吸をした。心臓の音は、子供にとっての子守歌になる事を俺は知っている。こうして心音を聞いていれば、そのうちきっと眠くなるはずだ。
「ん~~~……ん~~~」
鳴き声の調子が変わってきた、後は目を閉じさえすればいいだけなんだがなかなか閉じてくれない。俺は自分のまぶたを、ゆっくりと開いたり閉じたりした。これを繰り返せば、きっと何をすれば分かってくれる……はず。
――ストン……
よし、作戦成功! いい夢……見ろ……よ――――。




