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第53話 こんにちは、人食い赤ちゃん

 ――パリーン……

「あっけないもんだな」

「サイズが小さいからな」

「これで一安心……でしょうか」


 ダンジョンの魔物達との戦いを制した俺達は、ダンジョンコアを破壊しダンジョンの機能を停止させる事に成功した。コアのサイズが小さかった事から、元々あった巨大洞窟にごく最近コアが出現したのだろう、とテニシラさんが考察していた。


『大変だったわねダーリン』

「そうだな、誰かさんがアラクネをけしかけてきたからな」

『仕方ないのよ、あの子に守ってもらわないと外で生きていけないもの』


 マーテルに通訳してもらって、キルモーフが何故アラクネに俺達を襲わせたのか聞く事が出来た。あのアラクネは、彼女の用心棒だったらしい。キルモーフは身を守るために、アラクネの方もキルモーフの体内で寒さから逃れるために、お互いに結構うまくやっていたらしい。

 …………アラクネに男ができるまでは。

 

 アラクネはそのオスとつがいになり、めでたく卵を身ごもった。そこからのアラクネの食欲は想像を絶するものとなり、元々少なかった洞窟内の生き物を殆どその胃袋に納めてしまったらしい。

 キルモーフ自身は肉を口にしないため直接的な影響はなかったが、彼らの栄養源を分泌する生き物達が弱ってしまい、彼らキルモーフも危機に瀕していた。


「で、洞窟の外で狩りをするようになったのか」

『そうよ、そこでダーリンと出会ったの、うふ』


 キルモーフとしては狩りの獲物を持ち帰り、俺達を安全な場所に連れた来ただけのつもりだったのだが、巨大な肉の気配(俺達)に食欲を刺激されたアラクネが俺達を襲った、という話のようだ。


「聞いたか新入り! 魔獣の卵だ、売れば大金が手に入る!」

「ですが、彼女はすでに食べられてしまいましたよ」

「卵……もしかしてこれか?」


 俺はさっき拾っておいた、アラクネの放ったゼリーの様な物をポケットから取り出した。よく見ると半透明に透けたそれには、黒い点々が2個浮かんでおり目玉のようだと感じた。

 うわ! 突然ゼリーが震えだし、亀裂が生まれ中の粘液があふれてきた。生卵を割るように、デロンと大きな塊が地面に落ちた。

 ……やっぱり生き物なんだろうか? 手のひらサイズのそいつは、顔の半分以上が目玉になった人間の赤ん坊のように見えた。ただし全体的に半透明で、スライムのようにグネグネと動き回っているので、深海魚の一種が四つん這いしているようにも見える。


「ん~~ん~~」

「鳴いた!」


 ――ペヒョペヒョ

「動いた!」


 ――ガブッ!

「手を噛んだ! 痛ってぇぇぇぇぇぇ!!」


 手の平に乗せていたそいつは、セイウチのように這いまわり、俺の親指の付け根にかみついてきやがった! そして俺の肉をむしり取ると、もごもごと咀嚼し始めた。

 お、新しく【痛覚軽減】を覚えた。なるほど、それでこいつの餌になってやれとそういうわけですな。


「て、そんなんお断りじゃー!」

「タンマタンマ! せっかくのお宝が!」


 俺はこいつを地面に叩きつけようとしていたが、テニシラさんの声で踏み止まった。あれだけ必死になるからには、魔獣の赤ん坊はきっとすごく珍しいんだろう。餌にされるのは御免だが、しばらく世話をしてやる方が得策か……。

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