第51話 vsアラクネ 後編
「ちっ、腰抜けが……」
激しい打ち合いのさなか、アラクネが一瞬の隙を突きテニシラさんの背後に回りこみ、そのまま攻撃――はせず、俺達の方に襲い掛かってきた。
「待ってたんだそれを、【バインド】!」
「シャァァァ! ア、ア、ア、キャウ!」
彼女の6本の足に縄をかけるように魔力を伸ばすと、勢いに乗りすぎたアラクネの体が空中に投げ出されながら岩壁に激突した。そんな大きすぎる隙をテニシラさんが逃すはずもなく、疾風のように距離を詰めるとオーラを研ぎすましアラクネの体を人部分と蜘蛛部分とに大きく切り裂いた。
アラクネはきっと、戦闘力の低い俺達をいつか狙ってくるだろうと思って、罠を張りやすいポイントでずっと待機してたんだ。俺の攻撃はきっと当たらないだろうし、最悪テニシラさんの動きを阻害して逆に不利にしてしまうだろうと考えたからだ。
俺の戦闘力ははっきり言って低い、だから足を引っ張らずに済む方法、自分の身を守る方法を真っ先に考えた。すると、ちょうど都合よく足を引っかけられそうな場所を見つけたわけだ。仮に襲ってこなくても、俺はまだ【ヒール】を1、2回は撃てる魔力があったので、完全な足手まといにはならないであろうとは思ってたけど。
それにしても、テニシラさんには悪い事をした。俺が戦力にならないばかりに、かなり無茶な戦いをさせる事になって。さあ、いくらでも罵声を浴びせて、好きなように痛めつけてくれ、そのぐらいの仕打ちは覚悟の上での作戦だ!
「おい! 新入り――」
「はい! 申し訳ございません、テニシ――ごふっ……」
俺の腹が、アラクネの下半身、つまり蜘蛛の部分に一部かじられていた事に気が付いたのは、俺に密着していた蜘蛛の顔と目が合った瞬間だった。
あれ? 1、2、3……足が6本しかない。じゃあこいつは蜘蛛じゃなくて、アリとかハチの仲間なのかも、俺蜘蛛大っ嫌いだから、蜘蛛の餌にされたんじゃなくてよかった~。なんてお気楽な思考を続けてないと、パニックでどうにかなりそうだった。
そして俺は、次の瞬間パニックに陥った。
アラクネの人部分が、両手を使って俺の体を這い上がり、人工呼吸をするように俺に唇を重ね合わせ、若干粘液質な物体を俺の胃袋まで流し込んできたからだ。
ぐっわ、何だこれ何だこれ! 生ぬるくて、ざらつきがあって、臭みは無く程よいうまみと自然な甘みが絶妙に絡み合い、流動食のように流れるように喉の奥へと滑り落ちてくる絶妙にうまい物体は!
味覚をきっかけに冷静さを取り戻した俺は、アラクネ達を引っぺがし、その場から離れた。




