第49話 毒無効が無ければ即死だった(痛くないとは言ってない)
「悪かったよ、お前が魔物に襲われてるのかと思ったんだ。まさか、お前の彼女だとは知らなくてさ」
「いえいえ! わたくしとシンクはそんな関係では!」
「お前じゃなくて、こいつの事だろ」
「フェフフ」
俺に抱き着いて、もぞもぞしてくるキルモーフを乱暴に払いのけた。
テニシラさんも俺達と同じように、この土地に飛ばされてきたらしい。魔物を狩りながら飢えをしのいで、歩き回っているうちに偶然ここを見つけたようだ。奥の様子がどうなっているかをテニシラさんも調べていないようだったので、キルモーフに案内してもらおうという事になった。
奥に危険生物が住んでるか調べるためと、なにか役立つ物が見つかるかもしれないからだ。
「【吟遊詩人の足跡】があれば、魔物に囲まれる前に反応できます。あの子からは悪意を感じませんが、あの子の仲間がどんな反応をするかは分かりませんので」
「索敵ならあたいに任せな、洞窟探索はシーフの独壇場なんだからさ」
マーテルの【吟遊詩人の足跡】は、地形情報や生物の動きを事細かく把握できる優れた索敵スキルだが、彼女の天力は弱まってきているため、ここはテニシラさんに任せたいところだ。幸い俺だって鼻や耳が常人より鋭くなっているため、そう簡単には不意はつかせないつもりだ。
「痛ってぇぇぇ、何だこの野郎!」
いきなり、蛇の様なモンスターに不意を突かれた。胴体を引きちぎって簡単に倒せたが、噛まれた足が滅茶苦茶痛え。テニシラさんの索敵をかいくぐるなんて、どんだけ隠密能力高いんだこいつ。
「デッドコブラ、こいつの毒はやべえんだ! 噛まれたら最後、専用の解毒薬が無いと死ぬ……」
「この痛みは毒のせいかよ、もう治ったからいいけど」
「ふぅ、そうだった、お前は毒が効かないんだったな、ははは」
死ぬほど痛かったが、俺以外が噛まれなくてよかった。仮に噛まれてもマーテルが治せるらしいが、それも多くて3回が限界らしいので、非常に不本意だが俺が盾になる形で進んでいくのが最善だろう、非常に不本意だが!
そして、先頭を歩くキルモーフは他の魔物に見向きもされていなかった。おそらく彼らの餌に出来る部分が、体格のわりに少ない事をみんな知ってるのだろう。
『見て見て、ごはんとってきたよ』
『わー、すごーい』
『今日はご馳走だよー』
洞窟の奥で、キルモーフの群れと遭遇し俺達のキルモーフが、担いでいたホワイトウルフを自慢していたとマーテルが話してくれた。特に襲ってくるわけでもなく、俺達を発見するなりみんな逃げていくため、今のところ退治するつもりはない。
「……でも変ですね、キルモーフは草食のはず、魔物肉は食べないはずでは?」
まさか、俺達をご馳走にするためにここまで誘い込んだんじゃ。普通のキルモーフが草食でも、こいつらが実は肉食に進化している可能性だってある。それか、奥に食人花が生えてて、俺達をそいつの餌にするつもりだとか。
「マーテル、この先罠があるかもしれない、索敵を頼む!」
「あ、はい――――――え!!」
マーテルが、驚愕の表情を見せた。やっぱりか、この先に何かヤバいものがあったんだな、一体なんだ何があるんだ!
「――――コアです」
「なんですと?」
マーテルは、大きく息を吸い込んだ。
「この先にダンジョンコアの反応があります! つまりここは、タダの洞窟ではなくダンジョン、凶悪な魔物の生産施設ですよ!!」
「フェフフフ……」
マーテルの叫びにこたえるかのように、キルモーフの肉体がボコボコと形を変え始めた。




