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第30話 人が不幸になると儲かる職業

明日も投稿します。


「ひぃ! それだけは! それだけは勘弁してくれ!」

「暴れるな、傷が悪化するぞ!」


 ギルドの中では、腹を大きく切られた男性が逃げ回り、それをマグマのように煮えたぎる緑の物体の入った鍋を手にした、ギルドマスターが追いかけていた。

 鍋の中身は、マスター特製の回復薬で、【ハイヒーリング】級の回復力があるのだが、傷の回復まで激しい痛みに襲われるデメリットがあるため、まともな人間ならカネを払ってでも教会で治してもらう事を選ぶ、そんな代物だ。


「【ハイヒーリング】、マスターもう大丈夫、鍋をしまってください」

「……せっかく作ったのに、たく」

「おお、君は命の恩人だ。お礼をしたいが、クエストに失敗したばかりで、その」


 この人を助けても、見返りがない事は知ってる。マスターの回復薬に頼らざる負えない時点で、この男に金銭的余裕がない事は明らかだからだ。だがそれでいい、俺の目的は、大勢の前で回復魔法を披露する事だからな。


 この世界において、回復魔法はとても珍しい存在だ。欠損した体を瞬時に、くっつけたり生やしたりできる事を考えると当然なのだが、習得が難しく、魔力の消耗も大きいのだ。攻撃魔法で殲滅したり、支援魔法で肉体を強化する戦い方の方が、はるかに効率がいい為、誰も好き好んで習得しようとしない。

 なので、回復魔法を習得するのは、教会の神父さんのように特別な才能を持った人間、又は回復魔法以外に魔法の適性が無かった人間のみだ。


 だから俺は、癒しの力で大儲けしてやろうと考えた。回復魔法は貴重、しかし怪我がこの世から消えたわけではない、つまり絶対儲かる!


「兄ちゃんヒーラーなのか、だったらこの腕も治るか?」

「腹を刺されちまったんだが」

「火傷も治せたりするのか?」


 俺は、ダメ元で聞いてきた冒険者達の傷を全て癒して見せた。ついさっき、スキルポイントを振り直して回復魔法に関する能力を上げてきたからな。俺は寝ながらにして、回復魔法の天才になったわけだ。


「【ハイヒーリング】……あれ?」

「流石に、3回も使おうとするのは難しいか」

「ちょ、ちょっと休憩させてください、もう一度試してみますので」


 俺は椅子に腰かけ、持ってきたりんごんのミルクを2口ほど飲んだ。


「【ハイヒーリング】」

「おお、治った! 綺麗に治ってる!」


 ふふふ、せいぜい明日から宣伝してくれよ。

 さてと、ミルクを運んでりんごんの所に帰るか。


「たのも~、こちらにシンクという方はいるでありますか~?」


 ギルドの入り口に、人が立っていた。

 鍛冶師の物と思われる、作業着に身を包んだ小柄な女の子だった。

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