第29話 異世界の牛は喋るし魔法も使える(教訓その4)
明日も投稿します。
「どうも、りんごんです、牛です、ミルク出せます」
「でかしたぞシンク! まさか野生の乳牛を捕まえてくるなんて」
えー、俺のアシスタントは、ギルドの牛乳係に任命されました。
壁の外を歩いていたら、偶然彼女と出会いなつかれたので連れてきた、という設定にしてギルドの中で世話してもらえる事になった。壁の外にも村や集落があり、そこから逃げ出した家畜達は、野生動物のように捕獲してもよい事になっているので、この設定でいく事にした。
仮に俺が、村の柵を壊していたり、盗んできたのであれば犯罪者として裁かれる事になるが、正真正銘俺の牛なので裁かれる心配は一切ない。
ちなみにりんごんというのは、俺が適当に付けたこいつの名前だ。
こうして俺は、近所の牛舎でこいつの世話を任される事になった。
うまい事部屋から追い出された気もするが、きっと気のせいだろう。
「ねえご主人、商売しないの?」
「いきなりやると怪しまれるからな、もう少し待とうか」
俺は干し草に寝そべり、自分に爪を食いこませながら【眠り攻撃】を発動させた。ビリビリとした感覚が、指先から伝わってきた。カンナに体力を削られるより、ずっと鈍い痛みだが、継続は力なりというわけで、果報を寝て待つことにしよう、おやすみなさい。
「よく眠れるように、【防音】と【消臭】かけとくね」
「うう、俺の周りの女子で、お前が一番ヒロインやってるよ。牛なのに」
そんなこんなで3日が過ぎた。
その間俺は、りんごんのミルクを朝と晩にマスターの元に届け、飯を食って寝るだけの生活を送っていた。順調に俺の能力も成長し、ついに動き出そうかという大変良いタイミングで【魔力消費軽減】を習得。いい意味で、俺の計画を修正しなくてはいけなくなった。
「よし、これでジャンジャン稼げるな、いい時間だしギルドに向かうか」
「そうか! 魔法を使ってモンスターを倒しまくるんだね、頑張って」
「違うぞ、冒険者相手に商売をするんだ、絶対儲かる……多分」
「がんばれ~」「ナデナデして~」「がんばれ~」「よしよしして~」
周りの牛達の声援に後押しされて、俺はギルドに向かう足を速めた。




