第26話 異世界で風呂やシャワーは珍しい
明日も投稿します。
「ゴンゴンから聞いたよ、いろいろ知ってるらしいじゃん。じゃあさ、ドラゴンの倒し方も知ってるわけ?」
「……ドラゴンは賢いので、罠は無意味で正面からの対決になります。しかし、不利な戦いからは必ず逃げ出すので討伐は困難です。赤子がいるなら、それを囮に誘い出しましょう」
「なーんだ、教科書のまんまじゃん。あんた全然大した事ないじゃんか」
またしても、俺の相談客が逃げ出した。本日3回目でございます、はい。
ゴンゴン達の問題を、俺が解決したという噂は瞬く間に広がった。そして、悩みを抱える冒険者達が俺を訪ねてきたのだが、この世界に来て数日の俺に、たいしたアドバイスを出来るわけもなく、訪問者は日に日に減っていった。
ゴンゴンの件は、運が良かっただけなのだろう。俺の持つ情報と、彼らの欲しい情報が偶然一致しただけで、俺が天才になったわけでも、物知りになったわけでもない、それだけの話だ。
俺の方は相変わらずだが、ギルドの方は大繁盛になっていた。
俺の集めた客達が、マスターの作るギルド飯のとりこになったのだ。噂は噂を呼び、ついには冒険者でない一般人までギルドを訪れるようになっていた。
料理なんて女の仕事だ! と、家を追い出され、泣く泣く冒険者となった我らがギルドマスターは意外な形で料理人になるという夢を叶えたようだ。近々ギルドの仕事をサブマスターに任せて、自分は料理に集中するつもりらしい。
「シンク、予約客が来るから、その席開けといてくれ」
「あ、はい」
俺のお気に入りだった隅っこの席から、俺は追い出される事になった。
別に悲しくないし、部屋に戻るだけだし、カンナにセクハラしてやるし。
「あ、シンク。今夜はサンドバッグいいから」
「君が噂のシンク君だね、僕はロイク、よろしく」
カンナが男と一緒にいた。
しかも、男の俺が二度見するぐらいめっちゃハンサムの! なんですか、ハリウッドスターですか、映画の撮影中か何かですかコレ!
俺が心でツッコミを入れている間に、2人はどこかに出かけてしまった。
よっしゃ、カンナのベッドで寝そべってやる。ふふふ、カンナは、独学で【浄化】を習得するほどの綺麗好きだからな。その辺の香水まみれの女や、汚物のような匂いをまき散らすメスブタとは違うのだよ。
……毛布も【浄化】済みでした。
ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!
「マンガもねえ! ゲームもねえ! 美人の1人もいやしねえ! もう寝るしかねえじゃねえか!!」
「すまんシンク、急な来客があって、今日は野宿してくれ」
マスターの一言で、俺の中の何かが切れた。
俺は走った。走って走って走って走って誰かとぶつかった……ガラの悪い男だった。俺はそいつと殴り合って殴り合って殴り合って、そして負けた。
かつて俺であったと思われるぼろ雑巾を、激しい雨が襲い掛かった。
寒い……逃げなきゃ……あそこにしよう。
――ドバシャァ
クソツボの中身が、頭の上から降り注いだ。俺は、身を潜めていた路地裏から飛び出した。そこで俺の意識は限界を迎えた。
「……きて……ご主……」
「起きて…………人」
「おはよう、起きてご主人」
――アシスタントが派遣されました――
(ニヤリ)計画通り。




