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第25話 弘法筆を選ばず、しかし我々は弘法にあらず

明日も投稿します。

「オレはリーダーのゴンゴンだ、よろしく」

「よろしくお願いします」


 怪力のゴンゴン、それが彼の通り名だった。先日無茶なクエストを引き受け、財産のほとんどを失い、ゴブリン狩りに精を出す今では、負け犬のゴンゴンや、落ちぶれたゴンゴン、かわいそうなゴンゴンなどと噂されている。


「早速だが聞かせてほしい。うちのアーチャーのエルルなんだが、なんというか……その、オレのパーティーに入ってから調子が良くないらしいんだ」

「違います、無関係です、ゴンゴンさんは悪くありません!」


 金髪エルフの、お姉さんが叫んだ。

 ゴンゴンは前回の失敗から、怪我をしないで戦える方法を考えていたらしい。今までの殴り合いに打ち勝つような戦い方をやめ、罠を張り巡らし敵を弱らせ、遠距離からとどめを刺す戦い方に切り替えたようだ。

 その過程で新たに仲間に加わえたのが、このエルルさんらしい。


「最初は地味だし格上の魔物は倒せないしで、正直不安だった。でも結果は大成功だった。前は怪我や病気でクエストを休む日も多かったが、それがなくなったおかげで毎日のようにクエストが受けられる、前より稼ぎが良くなったんだ!」


 そうです、健康は財産です! 健全な肉体は莫大な富を生み出します。


「だが最近なぜか、獲物をしとめきれないことが多くなってな。今日のクエストで、遂に怪我人を出しちまったんだ」


 エルルさんが右腕に巻いていた布を外すと、ほんの小さなかすり傷があった。きちんと処理されているため、これ以上悪化することは無いだろう。


「今日はこの程度で済んだが、何かの間違いで大事故につながるかもしれん、何とかして彼女のスランプを解消してやってくれないか」

「では1つ質問ですが、最近必要以上に矢のまとめ買いをしていませんか?」

「やっているぞ。上位パーティーがそれで矢の代金をうかしていると聞いてな」

「ああなら原因それです、必要なだけ買うようにすれば治りますよ」


 ゴンゴン一行は、頭にはてなマークを浮かべていた。

 彼らは最近、毎日のようにゴブリン狩りに出かけていて知らなかったかもしれないが、アーチャーの不調は俺の周りでもよく聞く話題になっていた。


 ただ矢に不良品が混じってた、だけの話なんだけどな。

 ゴンゴンの話していた、上位パーティーのまとめ買いの話は俺も知ってる。ただみんなが勘違いしてるのは、上位パーティーは設備の整った工房を相手に取引を行っているわけで、断じてその辺の武器屋で調達しているわけではないという事。


 そんな事情を知らない、冒険者達の間で都合のいい解釈が広まり、そのしわ寄せは武器を作る鍛冶屋のおっちゃんを襲う事になった。設備も従業員も揃っていない場所で、大量の需要にこたえられるはずもなく、そして生まれたのが大量の不良品というわけだ。


「という事情がありまして、店で買うならいくつかの店を回って、品質の良い物だけを見定めて買うようにしてください。知り合いの職人がいるなら、小銭を渡して優先してもらう手もあるでしょう」

「分かった、探してみよう」

「良かった、これで誰も怪我しない」


 次の日、彼らはきちんと無傷の勝利を収めたようだ。

 勝利の鍵は、当たり前に突き刺さる、ごくごく普通の矢。



 いやー、これぞまさに動かざること山のごとし。常に人と情報の集まるギルド内にいたからこそ、今回の事件を解決できたわけだ。そうと分かればサボり、いやいや、情報収集の準備だー。

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