第19話 合法的に、人をぶん殴れる職業(カンナ視点)
今日は3話、投稿予定です。
「どうだ! 思い知ったか、これがおれ達の痛みだ!」「お前のせいで、何回前歯を治療したと思ってる!」「私なんか、足を蹴られたのよ!」「ううう、わき腹が痛むわい」
「ご静粛に! 皆様に、この悪魔の悲鳴をさらにお届けいたしましょう! 我が名はゴンザレス、正義の使者ゴンザレス様だ!」
スキンヘッドで上半身裸の大男が、両手を広げてそう叫んだ。
彼の足元には、ぼろ雑巾のようになったカンナがいた。
「聞こえたな悪魔め、そこの彼は前歯を失くしたそうだ。なので――てい」
男はカンナの口に手を突っ込むと、前歯を引っこ抜いた。
「彼女は足だそうだな――てりゃ」
男は、カンナの両の足を蹴り飛ばし骨を砕いた。
「腹を裂いたら死ぬだろうし、あのおじいさんには少々我慢していただこう」
「待つのじゃ! わしの脇腹は今朝段差でつまずいたせいじゃ!」
「……では、他の被害者は? 他にもいるだろう、顔を殴られた奴、腕を殴られた奴、家族を殺されたりとかしたんじゃないのか!?」
ゴンザレスは、さらに声に勢いをつけて、周囲の住人をぐるりと見渡した。
「いや、もう十分だよゴンザレスさん。こいつもきっと反省したし、怪我だって教会に行って治ってるし、それになんか……可哀そうだし」
「歯を引っこ抜いたのは、さすがにグロいよな」「足だって、グニャグニャになって気持ちわりいし」「帰ろうぜ、豚の世話しねえと」「おれも、薬草に水やりするんだった」
すっかり怒りや興奮が冷めた通行人達は、それぞれの生活に戻っていった。
ゴンザレスは、去っていく人々にすぐそばの店の看板を投げつけ、薙ぎ払った。
「いってー、何しやが――ぎゃう!」
「悪党に対して可哀そうだと……根絶やしにせねば! この世の悪を! そして、それらに慈悲をかけてしまう愚かな人々を……すべて抹殺せねば! 我が名はゴンザレス、悪を許さぬ正義の使者ゴンザレス様だ」
ゴンザレスは、看板の下敷きになり思うように動けない男性に対して、拳を振り上げた。
「【ドラゴンスレイヤー】みんな、早く逃げて!」
危険を感じ取ったカンナは、ゴンザレスに攻撃を仕掛けた。
砕けた骨をオーラで補い、ゴンザレスの首元めがけて飛び上がった。右手にオーラを集中させ、【オーラナックル】から【オーラブレイド】へ。
そこからさらに力を練りこみ圧縮させ【ドラゴンスレイヤー】へと強化した一撃を、ゴンザレスへと放った。ゴンザレスの背中から、つつーっと血が零れ落ちた。
「あはっ、やっぱりぶん殴られるより、ぶん殴る方がた~のし~」
「本性を現したな、悪魔め。もう手心は加えん、次なる悪が待っているからな!」
「悪魔……祓えるんだったらとっくにやってるわよ! 抑えられないの! どうしようもないの! 人を殴るのが楽しくて楽しくて仕方がないの! だから決めたの【オーラナックル】!」
光り輝く両の拳を、ゴンザレスに叩きこみ続けるカンナ。痛みにゆがんだ表情が、みるみる暴力の快楽に塗りつぶされていった。
「私はもっと強くなる! もっともっと強くなって、国を守る騎士になるって! そんでもって、あんたみたいな悪党を、思う存分痛めつけてやるのよ!」
「なぁーにぃー!? 自らの悪事の為に国まで利用するとは、許せん! 成敗!」
――ゴスン
圧倒的だった。
ゴンザレスがちょいと本気になり放った一撃は、カンナの意識と顔面をあっけなくズタズタにした。喉がつぶれたか詰まったかしたようで、呼吸も満足にできない様子だった。
あと数分で、カンナは死ぬ。
「【ギガヒール】! ……良かった、間に合ったぜ」
「……新たな悪か?」
「違うね、俺は……その女のサンドバッグだ!」