第16話 巨乳の金持ちが尋ねてきた。
明日も投稿します。
「ちょっと、何で逃げるのよ!」
「お前が、追いかけてくるからだー!」
カンナとの距離が、少しずつ離れていくのが分かる。
初めて出会ったときは、カンナの速さを目で追う事さえできなかったが、この数日間で俺の身体能力は飛躍的に向上していたらしい。
それでもまだ直線でのスピードではカンナに分があるが、建物や通行人を巧みに利用してカンナの速度を落とすことに成功している。
「いい加減にしなさい! 【オーラダッシュ】」
「【空中歩行】、こいつで逃げ切ってやる!」
説明しよう! この技は普通に使うと両足が地面から離れ、地面を蹴る事ができなくなる一見役立たずな技だが、予め勢いをつけておく事で地面をすべるように移動したり、壁を走ったりできるのだ。
「ぜえはあ、はあ、つ、辛い……」
「じゃあな~、元気でな~」
オーラの使用には、かなりの体力が消耗される。一方俺の方は、ほとんど消耗なしで加速する事が出来た。持久力の差が、勝敗を分けたというわけだ。
さてと、逃げたはいいが同じ部屋で暮らしてるわけだし、うまい事言い訳を考えないとな。なんてことを考えてるうちに、ギルドの前まで戻っていた。カンナはまだ戻ってないみたいだし、マスターの知恵でも借りてみようか。
「ただいま戻りましたー」
「お、戻ったな、小僧に客だ」
客? この世界に知り合いなんていないはずだ、一体何者だ?
マスターの視線の先には、女の子が1人座っていた。ギルドの新人さんかな? かわいい子だし、あんまり野蛮な仕事にはついてほしくないな~。
「えと、その客というのは?」
「彼女だ」
えぇぇぇ! こんなかわいい子が俺に会いに、嘘だろおい。そうだ彼女はきっとヤンデレだ、普通の美少女が俺に興味を持つわけないんだ、カンナみたいに!
「始めまして、わたしはエミリア=グラスプと申します。本日はこちらのギルドに謝罪を――」
「デカイ!」
「?」
幼い顔立ちと、上品なドレスに惑わされてまるで気が付かなかった。そのたわわに実った果実に! 揉みしだきたい、いや! スプーンで突っついてプルプルさせたい。させてください!
「あの、俺の頬に平手打ちしていただけませんか?」
「てい」
「ありがとぉぉぉございます!」
これだよぉ~、美少女からの攻撃はこうなんだよぉ~。
「う、うんっ! 話を進めないか、オレも仕事に戻りたいんだが」
「し、失礼しました!」
ほうほう、ふむふむ、なるほどう、彼女の父は、有名な商人らしい。
数日後に大きな取引があり、商品を運び屋に届けさせるつもりだったのだが、通り道にゴブリンが大量発生し困っていたらしい。国に動いてもらおうと頼みはしたが、ゴブリン程度に騎士団は動かせぬ、と追い返されてしまったらしい。
「それで、ギルドでクエストを発注させたら、情報の抜け落ちがあったと……」
「大変申し訳ないことでございました。聞けば大勢の怪我人が出たそうで、皆様に何とお詫びをすればいいのか……」
国が悪徳商人を取り締まれないわけが、分かったような気がする。それがミスなのか、詐欺なのか判断がつかないせいだろう。
地球でだって、詐欺は立証が難しいらしいし、異世界ならなおさらか。
「で、謝罪の件はとりあえず置いといて、こいつに用ってのは?」
「はい、その前に確認しますが、これはあなたの書いたものでしょうか?」
エミリアが広げたのは、1枚の地図だった。
ああ、これね、俺がさっき商人の説得に使った奴だ。ゴブリンの位置や、金品の動きを書き記して、今回の被害総額を割り出すのに使ったんだ。
「はい、俺が書きましたよ」
エミリアとマスターの、顔つきが変わった。
え? もしかしてこんな事ってしちゃいけなかった? やばいな、この国の法律なんて知らなかったし、誰も注意しなかったし……。
「素晴らしいです!」
「はへー、これをお前さんが」
褒められた、なんか知らんがやったー!
「わたしは、前々から思っていました、魔物の討伐報酬は適正ではないのではと。おかしくはありませんか? 畑を荒らすゴブリンよりも、何もしていないドラゴンの方が報酬が高いだなんて」
「う~ん、討伐にも装備がいるし、それには賛同しかねるな」
「ええ、ですから、国が予算をつけるべきだと考えます。荒らされているのは民の財産です、後の税金です、正当な報酬を用意し守るべきではないでしょうか?」
なるほどなるほど、つまり彼女は、俺の書いた地図を根拠に国の予算を引っ張ってこようとしてるわけだな。
「こちらでより正確なデータを、ご用意いたします、ご協力お願いします!」
「断る!」