第14話 圧倒的な相手(勇者視点)
「勇者様、右に3、左に4です」
「ダグラスは右を頼む、ニダリーは俺の援護を」
現在、ゴブリンの狩場は、敵味方合わせて100を超える兵力が動いていた。
仮に味方側を勇者陣営、敵側をゴブリン陣営とする。
ゴブリン側の武器は、数と連携。鎧装備のゴブリンが盾となり、弓兵ゴブリンが矢を放ち続け、魔導士ゴブリンがそれらを援護する、かなり標準的な立ち回りだ。
一方勇者陣営の立ち回りは、奇襲と暗殺。索敵魔法を駆使して敵の陣形を常に観察し、囮や罠、隠密魔法を駆使して、敵部隊を各個撃破していく作戦だ。
『勇者様、援軍を送ります、下がって』
『いや、俺は囮役だ、俺につられている間に他を叩け!』
通信魔法で連絡を取り合いながら、知恵と勇気で数の差をひっくり返そうとする勇者陣営だが、疲労と焦りによって時間とともに不利になっていった。
『見つけた! ボスだよ、勇者様の言った通りボスがいた!』
『でかした! ロゼッタ、君の出番だ、全力で放て!』
『了解、巻き込まれないでよね』
陣営最後尾で待機していた、魔導士の少女に指示が飛んだ。彼女が生み出した爆炎により、ゴブリンの集団がまとめて吹き飛びボスゴブリンへの道が開いた。
敵の戦力が勝っている以上、大将の首を落し敵の統率を乱す事、それが唯一の勝機。
爆炎の残り火が消える間もなく、両陣営の大将が剣を交差させた。
「我が名はゾルディス、ハイゴブリンのゾルディスなり」
「俺は……名もなき勇者とでも名乗らせてもらおうか」
互いの呼吸がかみ合った瞬間に、鋭く一歩――。
「てめえ、勝手に何してやがる!」
――ゴチン!
ゾルディスは、何者かに殴り倒された。
どうやら、真の大将のお出ましのようだ。
「すまねえな、人間の兄ちゃん。オイラはディアーク=ゾ・バルディッシモ、ゴブリン族を束ねるアークゴブリンにして、バルディッシモ帝国の国王である」
ディアークと名乗ったゴブリンは、余裕たっぷりとそう口にした。
「たくよう、勝手に出撃するわ、兵士を大量に失うわ、挙句に敵の接近をここまで許すわ、それでも将軍かよ」
「申し訳ございません、ディアーク様」
「尻拭いするこっちの身のもなれよな、【ギガリバイブ】」
ディアークの蘇生魔法により、ゴブリン軍団が全員復活した。
そしてディアークは、腰に下げていた大きな袋を投げ捨てた。
中身は大量の金貨だった。
「今回の迷惑料だ。それをやるから、軍隊引き連れて、オイラの国を攻めようだとか考えないでくれよな。ナイフの血を洗い流すのも、結構面倒だからさ。じゃあな兄ちゃん」
こうして、戦いは終わった。
それは、あまりにも唐突なな勝利だった。
「みんな戻ろう、戦いは終わった……」
「……勇者様」
「やめてくれ! 俺は、みんなに嘘をついてた。俺は勇者なんかじゃない、ただみんなにちやほやされたくて偉そうにしてた、ただの卑怯者なんだよ!」
「そんな事ない、勇者様は勇者様だよ!」
「卑怯なだけの人間が、あんなに必死に戦えるもんか!」
「オレはあんたの戦いに、勇気をもらったんだよ!」
俺は弱い。敵の大将が立ち去るまで、俺は息をすることもままならなかった。
……強くなりたい、今よりもっともっと強くなりたい。
彼らの、信頼にこたえられるぐらい強く。
――
――
――
そう勇者が決意したところを、俺とカンナは戦場の外で観察していた。
いや~、ゴブリンは強敵でしたね(他人事)。