第12話 うふふ、昨夜は拷問でしたね
「ここがベッドで、こっちが収納、いい部屋だろう」
「説明の前に、めり込んだ体を何とかしてください」
俺は今、1階の天井に頭をめり込ませ、2階の部屋を覗いている。
ギルドマスターの説明通り、なかなかいい部屋だと思う。
「今日から坊主には、ここでカンナと生活してもらいたい」
「俺に死ねという事ですね、分かります」
「家賃と飯がタダだと言ったら」
「喜んで使わせていただきます!」
よっしゃ、タダ部屋いただきだぜ。
この訳の分からない世界で生きていくために、活動拠点がほしかったんだよ。
まあ、カンナに殺されるリスクはあるが、どうせ殺されるなら、外の世界で魔物や変質者に殺されるより、可愛い女の子に殺されることを俺は望む。
何よりタダなのがいい、生活費を稼がなくていいんだからな。
「そりゃよかった、パーティー組むなら同じ部屋のが都合いいしな」
「え? パーティー?」
「やったわマスター、指印綺麗にとれたわ、これで契約成立よ!」
「でかした! 半人前のひよっこだが、カンナの事よろしく頼むぜ」
マスターは、俺の体を引っこ抜きながらそう話した。
なんか指が変だと思ったら、契約書作ってやがったのかよ!
こうして俺は、冒険者ギルドに登録させられた。
戦争起こったら戦わされるんだってさ、はは、怖いね~。
はぁ、メンドクセェ~。
規則とか、規律とか、訓練とか、とかとかとか――――。
はっ! もう夜!? いつのまにか寝てたのか。顔を横に向けると、隣のベッドでカンナも同じように眠っていた。
うまそうな匂いと包丁の音、夕飯の時間なのか。
「起きろーカンナ―飯だぞー」
「……」
「起きないとエロいことするぞー」
俺は、カンナの胸を揉みしだきながら尋ねた。
返事がないね、では失礼。
『なあマスター、なんであのちびっこ仲間にしたのさ?』
床に空いた穴から、下の声が聞こえてきた。この声は多分、カンナと最初に挨拶してた女の人だ。
軽装備だったから恐らく職業は盗賊、全身にいくつも傷跡があったが、そんなのかすんで見えるほどの美人だった。特にあの唇、たまらなくセクシーだった。
『あの小僧か? あいつならカンナと友達になれるかもと思ってな』
『あたいはダメだってのかい?』
『年の近い奴の方が、あいつの為になると思ってな』
マスターは、結構いい人みたいだな。……いや、いい人過ぎる。いくら仲間思いの人でも、その為だけに俺みたいなのを仲間にするだろうか。……油断させて、俺をどこかに売り飛ばすつもりなのかも。
『マスターあんた、未だにカンナに悪いことしたと思ってる?』
『もちろんだ。覚えてるか? あいつが初めて仲間にしてほしいとやってきたとき、あいつは10歳のガキだった。勿論追い返したさ、ここはガキの遊び場じゃねえってさ』
『それからしばらくしてからだったよな、カンナがオーラ使いになってまた顔だしてきたのは。あんときゃぶったまげたよ、こんなちっこい奴が! てさ』
『そして、あいつの居場所はなくなった。オーラ使いの暴力女なんて、オレら以外に誰が好き好んで関わるかよ』
カンナのバイオレンスっぷりは、そんな頃からだったんだな。
『あの時追い返してなかったら、まだ……そんなことを考えちまうのさ。だから、あいつにしてやれる事は、全部やってやりたい。すまねえな小僧……オレのわがままに巻き込んで』
『と、マスターが泣きながら謝ってるので、今回の件は許してくれ新入り!』
『な!? あいつ聞いてやがったのか! いつから気づいてた!』
『シーフの聞き耳、舐めんなよ』
居場所を守る大変さは、俺だって知ってるつもりだ。いきなり契約させられた時は腹が立ったけど、そんな事情があったなら、俺だって協力してやらんでもない。マスターがいい人だと判明した事で、拠点と保護者をまとめてゲットできるんだ、断る必要もないだろう。
「う~ん、よく寝た~…………!」
「おはようカンナ……さん! なぜ怒っておられるので?」
「……パンツ返せ」
あっはっは~、さっき脱がしたコレのせいか~。
――死んだな。
「うんぎゃぁぁぁ!! お助けぇぇぇ!!!」
『お、最初の一撃たえたぞ、すげーなあいつ』
『オレの目に狂いはなかった、あの男ならカンナのすべてを受け止められる!』
「死ね死ね死ね死ね! この――――野郎!」
「回復回復! 誰か俺に魔力をぉぉぉ……」