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冬の帝国と精霊対話師  作者: アウグスト葉月
四章
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人間界へ

『違います、そうじゃないの。もう精霊たちに命令して言うことを聞かせようなんて、そんなことは思っていません。

 ただ、たとえば、雨が降りすぎて山崩れが起きやすいところがあったとしたら、その地域の雨を移動させて、雨が降らなくて困っている地域で降らせることはできないかしら?

 精霊に命令するのではなく対話をして、世界から災害を減らしたり、ほんの少しでもよくすることはできないかしら、と思ったの』


『なるほどのう』

 コロノンザーはあごに手をあてて考える。

『上手くいくかはわからんが、やってみてもいいかもしれんの』

『よくわかんないけど、楽しいことなら僕するよ!』

 キルトは火山の噴煙に乗って上下しながら賛成する。


『話はまとまったようですね』

 噴火口から出ていた蒸気が集まり、水滴となる。そしてその水滴が人の形に変化していく。小指ほどのサイズの水の精霊アンジームがマリポーザの手のひらの上に降り立った。


『ではコロノンザー、キルト。「岩の扉」で待っていますよ。マリポーザの今後について話すために』

 言い終わるとアンジームは再び蒸気となり消える。

『何百年ぶりかのう、岩の扉に行くのは』

 コロノンザーはいたずらっぽく目を輝かせた。

『人間界に行くのであれば、せっかくだから派手にやりたいのう』

(なんだろう、嫌な予感しかしない……)


 マリポーザはこの先に不安を覚える。「岩の扉」がどこなのかマリポーザは知らなかったが、キルトとコロノンザーとともに着いた場所は、大地の精霊メヌの家だった。つまり、マリポーザは初めて精霊界に来た時に着いた場所に戻って来たことになる。


 そこではすでに、メヌとともにアンジームも待っていた。

『おかえり。どうだった?』

 メヌは大きく腕を広げてマリポーザを迎えてくれた。

『色々わかったよ。精霊たちのことも、アルトゥーロさんがなぜ消えてしまったのかも』

『そうか』

 メヌは岩のようにゴツゴツした大きな手のひらでマリポーザの頭を撫でる。

『私、やっぱり人間界に帰りたい。そして、精霊術の研究を続けたいの』

 マリポーザの言葉にアンジームが頷く。


『そのことですが、気になる点があります。

 アルトゥーロは、本当に特殊な人間でした。精霊を見ることができるだけでなく、触ることができる人間など、他に聞いたことがありません』

『僕も知らなぁい』

 キルトは宙に浮かんだまま伸びをした。メヌもコロノンザーも首を振る。


『そういえば変じゃの。まあ他にもそういう人間がいたのかも知れんが、かなり珍しいことは確かじゃろう』

 コロノンザーは優雅に足を組みながら宙に浮いている。


『そのアルトゥーロが、太古の精霊術を復活させ、精霊を人間界に呼び出しました。それだけでなく、人間を精霊界に送る方法まで知っていた。そして実際、マリポーザが精霊界にやってきました。これまで何百年となかったことです。

 私には何か大いなる力が働いているような気がするのです』

 アンジームの言葉にマリポーザは首をひねる。


『大いなる力?』

『我々は水や火、土や風の力を司っていますが、世界にはほかにもたくさんの精霊がいます。また我々の知らない力もあるでしょう。私はそんな、何か大きな力が働いている気がするのです』

『アンジームは心配し過ぎだ』

 メヌが苦笑する。コロノンザーは考え込む。

『じゃがのう。このまま人間界と精霊界の境界線が曖昧になるのは、ちとまずいの。マリポーザ、お主はどうやって精霊界に来たのじゃ?』


『マエストロが、アルトゥーロさんが、古代の遺跡で見つけた魔法陣を使って、こちら側に来ました。研究所にあった魔法陣は焼いてしまったので、もう使えないはずです』

『それでは、とりあえずは他の人間は精霊界には来れないんじゃな。その遺跡には元の魔法陣が残っているのかの?』

『それはわかりません。フェリペさんたちに聞けば、わかるかもしれませんが』


 ふうむ、とコロノンザーは腕を組んだ。

『マリポーザ、お主は精霊術の研究を続けたいと言っておったの。妾はそれに賛成じゃ。今、世界で何が起こっているのか、それでわかるかもしれんしの』

『そうですね。私もとても興味があります。しかし今は念のため、あなたのこの手にある魔法陣も消しておきましょう。人間が簡単に精霊界には来れないように』

 マリポーザの右手に描いてある魔法陣を、アンジームが両手で包みそっと撫でる。すると綺麗に魔法陣が消える。


『あとは、マリポーザを人間界に返すだけだ』

『それには人間界で魔法陣を用意してもらう必要があります。通常は特殊な魔法陣が必要なのですが、我々四大元素の精霊がいれば、なんとかなるでしょう』

『ええ? マリポーザ、帰っちゃうのぉ?』

 メヌとアンジームの言葉に、キルトが口を尖らせて文句を言う。


『大丈夫だ、キルト。マリポーザは人間界に行っても、俺たちと繋がってる』

 メヌは大きな口を開けて笑った。

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