表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冬の帝国と精霊対話師  作者: アウグスト葉月
四章
50/68

火の精霊に会いに

 水の精霊アンジームは、うつむくマリポーザの手に自分の手をそっと重ねた。

 その手はひんやりとしていたが、心地のいい感触だった。

『マリポーザ、何も難しく考えることはありません。自分がどうしたいのか、言ってご覧なさい』

 優しくアンジームが問う。


『私は、人間界に帰りたいです』

『それから?』

『火の精霊コロノンザーにも、会いたいです。会って、マエストロが、アルトゥーロさんが本当に死んでしまったのか、確かめたいです』


 アルトゥーロを殺したであろう精霊と会うのは怖くもあり、また憎しみを覚えなくもなかった。だがそれ以上に、本当にアルトゥーロが死んでしまったのか、なぜ殺されなければならなかったのかをマリポーザは確かめたかった。


『では、できることから始めましょう。とりあえず、コロノンザーに会いにお行きなさい。人間界に帰る方法は、そのあと考えましょう』

 アンジームは森で遊んでいるキルトを呼ぶ。


『なに?』

『コロノンザーのところに、マリポーザを連れて行ってくれますか?』

 てっきりまた嫌がるかとマリポーザは思ったが、キルトは嬉しそうな顔をして、『いいよ』と即座に快諾した。マリポーザは拍子抜けをする。


『キルトはコロノンザーが好きなの?』

『コロノンザーって面白いんだよ。すぐ怒るの。で、ぶわーって火が起こるから、僕たちもぶわーって空に飛んで、すっごく楽しいんだぁ』

(うーん、何言ってるのかわからないな)


 キルトが言っていることは抽象的すぎてマリポーザにはよくわからない。ただ、キルトがコロノンザーを好いていることだけは伝わって来た。

 マリポーザは無邪気なキルトが嫌いでないだけに、キルトがコロノンザーを好いているということに複雑な気分だった。

(所詮精霊は精霊で、人間である私が理解できるものじゃないのかもしれない)


『マリポーザ、怖い顔』

 キルトが小さな両手でマリポーザの顔を挟んだ。

『怒ってる? 僕、何かした?』

『怒ってないよ』

 マリポーザが慌てて言うと、キルトは安心したように、にっこり笑った。

『良かった。じゃあ行っくよー』

 マリポーザはキルトの小さな手を握って頷く。


 アンジームは両手を大きく振り上げた。それと同時に、泉の水が吹き上がり、マリポーザたちを乗せて高く昇った。

 キルトは楽しそうに大笑いしている。宙に舞った水滴が太陽の光を浴びて虹色に輝く。マリポーザは下にいるアンジームに向かって手を大きく振った。アンジームはおっとりと手を振り返す。


 キルトの手に引かれて湖を越える。しばらくは緑の草原や森が続いていたが、やがて波しぶきを浴びる岸壁へと出た。

『今度こそ海よね?』

 マリポーザがキルトに聞くと、キルトは元気に『うん!』と返事をする。

『これが海だよ!』


 辺り一面に水がある様子は、先程の巨大な湖とさほど変わらないように、マリポーザには見えた。しかしよく見ると、湖は水が穏やかで、さざ波程度の波しかなかったのに比べ、海ではうねるような大波が起こり、白い泡を立てて岸壁に打ち寄せている。

「きゃっ」

 大波のしぶきが顔にかかり、マリポーザは悲鳴をあげた。目が痛い。そしてしょっぱい。急いで服で顔を拭くマリポーザを見て、キルトは大笑いする。


「海って本当にしょっぱいのねぇ」

 マリポーザは初めて見る海に感慨深く呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ