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冬の帝国と精霊対話師  作者: アウグスト葉月
三章
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消えた少女

「おい、建物の中が明るいぞ」

「誰かいるのか?」

 数人の足音が聞こえる。


早く燃やそうとして台所から持って来た油を羊皮紙にかける。そしてその羊皮紙を暖炉にかざした瞬間、暗闇の中で何かにつまづいた。魔法陣の中に飛び込むようにして、暖炉に倒れ込む。

「きゃあっ!」

 何かに捕まろうとするように腕を伸ばしながら、マリポーザは真っ暗な濁流の中に飲み込まれた。深く深くどこまでも落ちていく。


(カルロスが言った通りだった)

 マリポーザは薄れいく意識の中で思った。私が精霊使いになるなんて間違いだったのかな。村を出なかったら、こんなことにはならなかった。マエストロも私をかばわなければ、樹の下敷きにならなかったのに。


 今さらどうにもならない過去の選択を後悔しながら、マリポーザは暗い闇へと落ちていった。



 自室で深い眠りについていたフェリペが無理矢理起こされたのは、早朝のことだった。

「フェリペ様、部下の方がお見えになっております」

 起こしに来た執事に返事をせず、フェリペは背を向けて羽毛枕に顔を埋める。

 昨夜は伯爵夫人の誕生日パーティに出席し、自宅に戻って来たのは深夜過ぎ。まだ寝付いてからそんなに時間が経っていなかった。

「俺は今日休み……」

「マリポーザさんが消えたそうです」

「なんだって?」

 その一言にフェリペは顔を上げた。


急いで軍服に着替えて居間に行くと、ジョルディとフェルナンド、そしてなぜかフアナもいた。

 フアナは真っ白な顔をして椅子にぐったりと座っている。ジョルディは落ち着きなく居間をどかどかと歩き回り、フェルナンドは真っ青な顔をして、じっと何かを考え込んでいるようだった。


「あれ? フアナ、お前は行儀見習いで聖堂にいるはずだろ?」

「今朝まで大聖堂にいましたわ。でも宮殿中が騒がしいので、何事かしらと思っていましたら、フェルナンド様たちとお会いしましたの。お兄様に今から報告に行くということでしたので、一緒に馬車に乗せていただいたのよ」


「それで、マリポーザが消えたというのは?」

 フェリペがジョルディとフェルナンドに問う。

「それが、牢屋から突然消えたって言うんですよ」

 ジョルディは全く訳がわからない、といった途方に暮れた顔をしている。


 フェルナンドが青ざめた顔をしながらも、いつも通りの冷静な口調で報告する。

「マリポーザがいなくなったことに牢屋番が気がついたのは、明け方近くです。研究所で不審火が昨夜未明にあったので、念のため牢を確認したところ、いなくなっていたとのことでした。宮殿の門番たちは、その時間誰も宮殿の敷地内から出ていないと言っています。もちろん街の外に出た形跡もありません」

「不審火?」


「はい、見回りの兵士が研究所内に明かりが灯っている事を発見しました。それで建物内に入ったところ、部屋の暖炉に火がくべてあり、何かが燃やされていたとのことです」

「誰かが部屋に入って暖をとった、ということか?」


「それが……油をかけて何かを燃やしたようで、通常よりも火の勢いが強く、暖炉の周りが少々焦げていたという話です。羊皮紙を燃やしたようですが、すでに灰になっているため、何を燃やしたのかは、はっきりとはわかっておりません」


「マリポーザがやったのか?」

 フェリペが独りごちると、ほかの三人は誰となしに顔を見合わせた。


「マリポーザはどこに行ってしまったのかしら……」

 フアナは震える手で顔を覆った。フェリペはその肩にそっと手を置いた。その様子を見ながらフェルナンドはフェリペに出立を促した。

「大佐がお呼びです。詳細はそこで」


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