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冬の帝国と精霊対話師  作者: アウグスト葉月
三章
33/68

禁忌の魔法陣

 兵士達の話す声が扉の前で止まる。

「夜中になると、コンステラシオン前女帝陛下に処刑された亡霊達が、恨み嘆きながら地下を彷徨うんだとよ。

 この間俺の知り合いが、夜勤のときに地下で子どもを見てな。『あれ、なんでこんなところに子どもがいるんだろう』と不思議に思って、近づいたんだと。

 近づいていくと子どもは床にうずくまって、何かをして遊んでいる。身なりも良いし、どこかの貴族の子どものようだ。親が探しているだろう、と思って兵士が声をかけたそのときに、子どもが振り向いて……」


 ゴーン……ゴーン……、と時間を知らせる鐘が鳴った。

「ぎゃっ」

 短い悲鳴とともに笑い声がする。

「お前臆病だなー」

「うるせえ、お前のせいだろ。交代の時間だ、早く行こうぜ」

 足音が遠ざかっていく。マリポーザはほーっと安堵のため息をついた。


 男たちが十分に遠ざかるのを待った後、二人は行動を再開した。隠し階段をさらに何段か上る。フードの人物は壁の下のほうにある突起を足で押す。すると隠し階段の扉が閉まり、食料庫が見えなくなった。


 そのまま螺旋状に続く階段を上っていく。何段上ったか数えられなくなり息切れをし始めた頃、目の前に木製の扉が現れた。フードの人物は扉に耳をあて、外を伺う。そしてポケットから鍵を取り出して扉を開けた。二人が外に出ると、フードの人物は鍵を閉め、またポケットに鍵をしまう。


 扉の前は大きな生け垣だった。扉を覆うように生け垣があるため、外からは扉は見えない。そこに扉があることを知っている人にしか、なかなか見つけられないだろう。


 生け垣を乗り越えると、宮殿の庭に出た。

 フードの人物は樹や草の陰に隠れながら進み、マリポーザを宮殿の敷地外へと誘導する。そして宮殿の敷地を囲む壁の西門に着くと、マリポーザに使用人の服と紙を渡す。そして手で追い払う仕草をして「行け」と伝えた。マリポーザが頭を深く下げてから顔を上げると、もうそこには誰もいなかった。


 西門は正門と違い、使用人や行商人が使う門だ。使用人の服を着ていれば、怪しまれずに出て行けるだろう。宮殿は静まり返っている。マリポーザが逃げた事にはまだ気付いていない。出て行くなら、今しかない。


 そのとき、マリポーザの脳裏にあの魔法陣のことがよぎった。


 精霊界に人間を送ることができる、大きな魔法陣。アルトゥーロは言っていた。「決して誰にも教えてはならない。世界の理を変えてしまうかもしれないから」と。


 少し迷ったが、マリポーザは研究所へと駆け出した。


 誰かが見張っているかと思ったが、研究所の周りにも中にも誰もいなかった。もうすでにアルトゥーロは死去し、マリポーザは捕らえられていたので、見張りは必要ないと思ったのかもしれない。牢屋に入れられた時に研究所の鍵はとられてしまっていたので、一階の窓を割って中に入る。


 建物の中は、旅に出る前とあまり変わっていなかった。多少は物を動かした跡はあるが、ほぼ触られていないと言ってもいいだろう。


 居間に立っていると、すぐにアルトゥーロがふらりと出てくるような錯覚にとらわれる。感傷を振り払い、疲れた足をひきずってマリポーザは二階の研究室を目指す。


 月明かりの下、研究室の棚の中から、大きな羊皮紙に書いてある魔法陣を次々と出し、目的の魔法陣を探す。燭台の明かりを灯したいところだったが、ここにいることを誰かに気づかれるとまずい。


「あった、これだわ!」

 小声で呟く。魔法陣に触らないように気をつけながら丸め、そして逡巡する。この魔法陣をどうしよう。破く? それだと紙片に気づかれたらまずい。なぜ破ったのか調べられ、破片を繋げられてしまうかもしれない。じゃあ、どうする?


 大分迷ったが、暖炉に火をくべて燃やすことにした。炭になってしまえば安心だ。暖炉の火が外から気づかれる危険性があったが、火で燃やす以外に方法はないと決心する。


 なるべく外から明かりが見られにくい部屋を選び、暖炉に火を灯す。

 (お願い、早くついて……)

 焦りで火打石を持った手が振るえ、なかなか暖炉に火が灯らない。ようやく薪に火が付き、煙があがる。


そのとき外から声が聞こえた。

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