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冬の帝国と精霊対話師  作者: アウグスト葉月
三章
31/68

あなたは誰?

 大地から炎が吹き出て、樹が倒れてきた時には、何が起こったのかわからなかった。いつもならこれで終わったはずなのに、と混乱する頭で、地面に倒れ込んだマリポーザを助けおこし、そばにいたフェルナンドに託した。


 樹の下敷きになったアルトゥーロを助け出すため、燃えさかる樹をジョルディと二人で無我夢中で持ち上げようとした。しかし樹の下からアルトゥーロを引きずり出す前に炎が襲い、結局アルトゥーロは助けられなかった。


(あの時にアルトゥーロさんを見捨てたほうが良かったのだろうか)


 もっと早く退避命令を出していたら、ダニエル伍長は死ななかっただろう。護衛という任務上、アルトゥーロを放って逃げ出すわけにはいかない。だが樹の下敷きになった時点で助け出すのは不可能だったのだ。いたずらに死人を増やす必要はなかった。


 そもそも、あの時気を緩めなかったら、アルトゥーロが樹の下敷きになる前に助けられたのかもしれない。


「くそっ!」

 フェリペは立ち上がって机の上の物を乱暴に払い落とした。花瓶や書物が派手な音を立てて床に落ちる。


 机を何度も拳で殴る。

「何で俺は何もできないんだ!」

 フェリペは奥歯をきつく噛み締める。悔し涙が頬を伝った。



 二日後の朝、出勤の準備をしているフェリペにフアナは「太陽神の大聖堂に行儀見習いに行きたい」と言い出した。


「貴族の令嬢たちは皆一度は礼儀見習いに行くと聞いておりますわ。良い機会ですから、昼は女神官たちの元で礼節をお勉強して、夜はマリポーザとボニータのために祈りたいんですの」


 最近よく眠れないのだろう。真っ赤な目をして憔悴している妹に、フェリペは心を痛めた。太陽神の大聖堂は宮殿の敷地内に建っている。同じく宮殿の敷地内にある陸軍庁舎から近いし、自宅からもそう遠く離れていない。何かあれば、すぐに行ける距離だ。


「いいんじゃないか。あそこにはフアナと同じ年頃の女の子がたくさんいるし。せっかくだから、沢山友人ができるといいね」

「嬉しい! では早速お父様達にお願いしてきますわ」

 手を叩いてはしゃぐフアナに、子どもは切り替えが早くていいな、とフェリペは内心苦笑をした。



 かしゃん、という金属が触れる小さな音で、マリポーザは寝床から身を起こした。


 地下牢に入れられて数日が経っていた。食事を持ってくる見張りの兵士から、自分が裁判にかけられることは聞いていた。しかしそれがいつなのか、といった詳細までは聞いていない。

(今日が裁判の日なのかしら……)


 そう思ったが、はるか上空にある明かり取りの小さな窓からは、日の光が入って来ていない。弱い月の光が牢を薄暗く照らしている。まだ夜のようだ。


 これからどうなってしまうんだろう。私は何もしてないのに、何で裁判にかけられないといけないの? マリポーザは闇の中で震える自分の身体を抱きしめた。


 そのとき、誰かが近づいてくる音が聞こえた。足音が兵士のものではない。兵士はかつかつと靴音をならして歩く。しかし今は足音をひそめて、誰かがこちらに近づいてくる。


 マリポーザは恐怖にかられ、牢の隅に身を寄せ息を殺す。こっちに来ないで、という願い空しく、牢の前に一人の影が立つ。真っ暗な中、闇に慣れた目でわかるのは、ぼんやりとした輪郭だけだった。


 その人物は貴族の履くパンツとブーツ、マントを身につけ、マントのフードを目深にかぶっている。顔は見えないが、背が低く小柄な少年のようだった。その謎の人物は牢の鍵を開けて、扉を開け手招きをする。

「あ、あなたは一体……?」

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