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冬の帝国と精霊対話師  作者: アウグスト葉月
三章
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兄妹の間で揺れる影

フアナは肩に置かれたフェリペの手を振り払う。

「私は、一生忘れませんわ。可哀想なボニータ! ボニータがコンステラシオン前陛下に捕まったとき、お兄様もお父様も、皆がおっしゃったわ。『あんなに小さな子が処刑されるなんてありえない。心配しなくて良い』って。

 でも殺されてしまった! 伯父さまの、皇配陛下と愛人の間の子どもとして、生まれてしまったから。あの子には何の罪もないのに!


 最後にボニータに会ったときは、やっと歩き始めたばかりでしたわ。私と『いないいないばあ』をして遊んだのよ。でも『いないいないばあ』って言ったら、ボニータは顔でなくてなぜか口と耳を小さな手で隠してね。おかしくてしかたがなくて、次にお会いする時は上手にできるようになってるのかしら、なんてお母様と一緒にお話していたのに。


 あんな小さな子が捕まったっていうのに、私たちは何もしなかった。『処刑されるわけがない』って言い訳をして、結局見殺しにしたんだわ」


 一気にまくしたてて、フアナは肩で息をついた。フアナとフェリペの間に気まずい沈黙が訪れる。しばらくして、フアナは疲れ果てたように呟いた。


「私、皇帝陛下に手紙を書いてみますわ。もしまだ、私のことを覚えていて下さったら、聞いていただけるかも知れないから……」

 出て行くフアナをフェリペは止めようとしたが、思い直して何も言わず椅子に座り込む。


(気の済むようにさせよう。それで少しでも気が休まるなら……)

 手紙を出す前に自分が内容を確認して、まずいようなら陰で握りつぶせば良い。そう考えてフェリペは自嘲気味に笑った。


「帝都は、ずるの塊か……。本当にそうですね、アルトゥーロさん」

 薄暗い部屋の中、椅子に座ったままフェリペは一人、目を閉じる。ボニータの顔に続いて、あの山火事の日の様子がありありと瞼の裏によみがえった。



 山火事を目の前にし、アルトゥーロが魔法陣の真ん中に立つ。マリポーザがそのそばに控える。そしてフェリペの部隊は精霊術の邪魔にならないよう、少し離れた位置から魔法陣を半円に囲んでいた。

 そこまではいつも通りだった。


 フェリペの位置からはアルトゥーロの背中と燃える山が見えていた。火の粉が舞い、足元も白い煙でくすぶってはいたが、視界を遮るほどではなかった。しかし胸騒ぎがおさまらない。皇帝が同行すると聞いたときから、なんだか嫌な予感がずっとしていたのだ。

 アルトゥーロの呪文の詠唱で炎が瞬時に消えたとき、心の底からほっとした。嫌な予感が杞憂に終わってよかった、と。


 そう、その瞬間、油断をしたのだ。

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