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冬の帝国と精霊対話師  作者: アウグスト葉月
一章
3/68

白い手紙の鳥

「じゃあ、手紙を早く飛ばしましょうよ!」

 マリポーザは胸を高鳴らせながら催促をした。

 村長は笑顔のままゆっくり立ち上がる。居間の隣にある部屋から、鍵の付いた小さな箱と羽ペン、それにインクを持って来て、居間の中央にあるダイニングテーブルの上に置く。ダイニングテーブルの前の椅子に座った村長を、村人たちとマリポーザ、カルロスが囲むように周りに立った。


 村長は小さな箱の鍵を開けると、白い正方形の紙を取り出し、そこにゆっくりと手紙をしたためていく。今年は早い時期から雪が降り続けているので、雪があまり降らないように調整してほしい、という内容を丁寧な口調で書くとペンを置いた。


 インクを乾かしてから手紙を鳥の形に折っていく。まずは対角線に沿って半分に、そしてさらにもう一方の対角線に沿って折る。帝国政府から配られた書き付けの図解を見ながら村長が紙を折っていくと、あっという間に白い手紙が鳥の形になった。


 マリポーザは、紙がみるみるうちに白い鳥の形になっていくのを見て、もうすでに自分が魔法を見ているような気がしていた。 

 さらに村長は小箱から魔法陣が描かれた羊皮紙を取り出し、その上に白い鳥の形に追った手紙を置く。そして、厳重に封をされた小瓶を開けてひとつまみの粉を取り出し、手紙の鳥に振りかけた。すると、白い鳥の羽が微かに震えだす。


「カルロス、窓を開けなさい」

「あ、う、うん!」

村長の声に、呆然と手紙の白い鳥を見つめていたカルロスが慌てて窓を開ける。

 窓を開けるのと同時だった。

 手紙の鳥が宙に浮かぶ。

 うわっという声にならない叫びが全員の口から出ていた。皆が注視する中、手紙はふわりと宙を舞うと、窓の外へと飛んでいく。マリポーザはそれを追って外へと走ると、カルロスも慌てて外套を着て走り出して来た。

 空を見上げながら街の広場へ向かって二人は走る。広場は見晴らしの良い丘となっており、下に広がる森が見渡せた。白い鳥は南の森を目指してゆっくりと羽ばたきながら、だんだんと小さくなり白い点となって消えた。


「行っちゃったね」

マリポーザは、白い鳥が消えてだいぶ経ったあとに、ぽつりと言った。

「すごかったね」

「ああ。本当にいるんだな、精霊使いって」

嘘だと思ってたけど信じないわけにはいかないよな、とカルロスも鳥が消えた森をぼうっと見ながら呟く。

「私は信じてたよ。最初から」

「お前、小さい頃からずーっと言ってたもんな。一緒に森で遊んでると、突然何もないところを指差して、妖精がいる、とかなんとか言ってたりな」

「うん。はっきり見えるというより、感じるの。何かいる気配を」

 信じてくれた人は少ないけどね、とマリポーザはちょっと寂しげに笑った。


 小さい頃マリポーザが精霊の話をすると、祖母は「そうね、世界にはたくさんの精霊様や妖精がいるよ」と優しく笑ってくれた。けれど父母は「精霊はいるかもしれないけど、人には見えないよ。きっと夢でも見たんだろう」と、人とは違うことを言い出すマリポーザのことを心配した。村の子どもたちには「また言ってるよ、嘘つき」といじめられた。

 そのためマリポーザは成長するにつれ、何か見えてもそれを口にすることはしなくなった。カルロス以外には。


「カルロスはさ、ずっと信じてくれたよね。私のこと」

嘘つき呼ばわりされて、ほかの子どもたちにいじめられているときに、カルロスはいつも助けてくれた。

「精霊使いの話は信じてなかったのに、私のことは一回も嘘つきって言わなかったよね。なんで?」

「それは……」

 カルロスは口ごもって黙る。そして頭を両手でがしがしっと掻いた。

「あーもう! それはお前が馬鹿だからだよ!」

「何よ、馬鹿って!?」

「いいんだよ、その話は! それより、精霊使いって本当に来るのかな?」

「来るよ、絶対」

マリポーザは広場から南の方角を見た。広場の下には見渡す限りの森が広がっている。この森を越えさらに南に行くと、巨大な帝都があるという。延々と続く真っ白な森の向こうには、華やかでキラキラした素敵な贈り物が隠れているような、そんな気がしていた。

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