上層部の決定
「どうでした? またあの熊親父に嫌み言われましたか?」
ジョルディは赤い髪を大きく振って、色黒の顔を心底嫌そうにしかめた。
「いつも通りだったよ」
フェリペは自分の机の前に座り、置いてある書類に目を通し始める。
「いつも通りって、あの『家柄で地位を手に入れた……』ってやつですか? 自分だって同じなのに、よくもまあ、いけしゃあしゃあと言いやがる」
ジョルディは低く唸る。
「口を慎みなさい、ジョルディ。水軍大佐殿は微妙な立場にいらっしゃるのです。
我がインヴィエルノ帝国は四方を海、川、湖と水に囲まれているため、国の防衛には水軍が大きな影響力を持っています。ですが水軍は航海術では陸軍に勝るものの、個人の武術は陸軍が有利です。
そのため、皇帝直属護衛軍に取り立てられるのは、陸軍からがどうしても多くなります。国の防衛に多大に尽力しているのに、評価されにくいと水軍大佐はお考えなのでしょう。ですから、ことあるごとに陸軍に突っかかってくるのです」
金髪の短い髪をきっちりと整えたフェルナンドが、サインされた書類の端を神経質にぴったりと合わせて揃えながら、皮肉そうに片頬を歪めて笑う。
「水軍大佐は嫌みを言って鬱憤を晴らすしか能がないのでしょう」
「こらこら。口を慎むのはお前もだろう、フェルナンド」
フェリペは二人を交互に見やった。山火事のときにできた火傷の跡が、顔や腕などに無数に残っている。もちろんフェリペもだ。革の手袋をしていたため重傷にはならなかったが、アルトゥーロを助けようとした際に手のひら全体に火傷を負ったため、包帯が巻かれている。
フェリペは姿勢を正して先程の結果を伝える。
「我々の処分はなしとのことだ。アルトゥーロ特別参謀と特殊任務班のダニエル伍長が殉職したが、今回の件は予測不能の事態であったため、処罰に問わないということだった」
フェルナンドとジョルディの視線が揺れた。
「だがマリポーザが裁判にかけられる。この間の山火事の件は、精霊術の失敗ではなく、アルトゥーロ・デ・ファルネシオ特別参謀が故意に起こしたのではないか、との嫌疑がかかっている」
「そんな馬鹿な! 特別参謀はあの事故で死んだんだぜ? 自分が死ぬような事件をわざと起こすなんて、あの偏屈な親父がそんな間抜けな真似するかよ。ましてやあの小さなお嬢ちゃんは、帝都に来たばっかじゃねえか!」
ジョルディは拳で机を叩いた。その隣でフェルナンドは爪を噛む。
「そうか、そういうことですか……」
「そういうことだよ」
なんだよ、そういうことって? と尋ねるジョルディを無視して、フェルナンドは苛立たしげにフェリペを見た。
「フアナ様はさぞ悲しまれるでしょうね」
フェリペは机の上で両手を組む。
「マリポーザがどうなるか決まったわけじゃない。今から悲観しても仕方ないだろう」
とは言ったものの、フェリペは胸が痛かった。