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冬の帝国と精霊対話師  作者: アウグスト葉月
三章
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出会いも別れも突然に

 皆が見守る中、皇帝の合図で護衛軍の一人が角笛を吹く。アルトゥーロは魔法陣の真ん中で呪文を詠唱し始める。


 山々を覆っていた炎が集まり、人の形になったようにマリポーザには見えた。真っ赤な炎のドレスを着た、情熱的な女性の姿をとったサラマンドラが空中でくるりと舞う。

(炎の精霊サラマンドラの召還に成功した)


 マリポーザは胸を撫で下ろす。皇帝陛下がわざわざ現場に出向いているのだ。失敗は許されない。とりあえず、一つ目の段階はクリアした。

 召還したサラマンドラにアルトゥーロは精霊語で話しかける。山火事の炎の勢いが弱まり、白い煙が大きく揺らぐ。

 その時、火の粉がアルトゥーロの袖にかかり、服に炎が燃え移った。驚いたアルトゥーロが袖の火を消す拍子に、魔法陣の文字を踏んでしまう。たたらを踏んだ足で、描いた魔法陣の文字が消え欠け、サラマンドラの姿が薄くなる。


 はっとマリポーザは胸を押さえたが、薄くなったもののサラマンドラの姿は消えていない。揺らめく炎のようにチラチラと瞬きながら空中に浮かんでいる。

 なおもアルトゥーロが何かを言うと、サラマンドラは炎のドレスをつまんで身をひるがえし、宙に消えた。山の炎も一斉に消える。

 人々の歓声がわっと湧く。次の瞬間、炎が大地から吹き出し天を焦がす。歓声がそのまま悲鳴に変わった。


「マリポーザ!」

 叫び声とともに、マリポーザは背中を押され、地面に転がる。目の前でアルトゥーロが倒れてきた樹の下敷きになる。

「マエストロ!」

 マリポーザは悲鳴を上げながらアルトゥーロに近づこうとし、フェリペに止められる。フェリペはフェルナンドにマリポーザを託すと、ジョルディと二人で太い樹の幹を持ち上げ、アルトゥーロを助け出そうとする。ほかの兵士も駆け寄ってきた。


「マリポーザ……」

 アルトゥーロが呻きながらマリポーザを見た。

「こんなにすぐに別れがくるとはな……。俺をまっすぐ見て、俺と同じ視点で話をしてきたのはお前だけだった。ほんの短い間だったが、俺にも初めて家族ができたように思えた。これが普通の奴らの幸せというものなのかと……この俺がそんなことを考えた……」

「嫌です、マエストロ、死んじゃダメです! 私まだ、一人じゃ何もできません!」

 アルトゥーロはマリポーザのそばに落ちている精霊語の辞書を指差した。

「それはお前の物だ」

 慌ててマリポーザは辞書を拾い上げる。

「自分の思うように生きろ」

 アルトゥーロは笑った。その瞬間、炎がアルトゥーロを包み、フェリペとジョルディが地面に吹き飛ばされる。


「いやああああああああ!」

 マリポーザは半狂乱になって泣き叫んだ。

 辺り一面が炎に包まれていた。焼け落ちた樹々が空から降りそそぐ。


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