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冬の帝国と精霊対話師  作者: アウグスト葉月
一章
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すれ違い

 朝一番に、マリポーザは村長の家の扉を叩いた。カルロスは、マリポーザが来るのを予想していたようだった。ちょっと緊張した顔をして家の中から顔を出す。

「上がれよ」

 マリポーザは無言で頷いた。


 カルロスの部屋に着いて、マリポーザは椅子に腰をかけ、カルロスは自分のベッドに腰をおろした。しばらく沈黙が続く。マリポーザは自分の手の中にあるミルクのカップを黙って見つめている。「伝えなければ」「伝えたい」という思いと同時に「伝えたくない」という気持ちもあった。しばらくして、ようやく重い口を開く。

「私、帝都に行こうと思うの」

「何馬鹿なこと言ってるんだよ。お前なんか、帝都に行っても幸せになれねえよ。あいつらに騙されてるんだ」 


カルロスの強い語気に驚いて、マリポーザはカルロスを見た。カルロスは立ち上がり拳を握りしめている。

「何でそんなこと言うの? 精霊使い様に認めてもらえたんだよ。カルロスも聞いてたでしょう?」

「だからそれが、うさんくさいって言ってるんだよ。精霊なんか見えねえし、ましてや操れるわけねえだろうが。

 そんなもんいやしないんだ!」

 マリポーザは衝撃に大きく目を見開いた。その顔を見て、カルロスははっとする。


「ずっとそう思ってたの?」

「いや、そうじゃない、つい……」

「ずっとカルロスもそう思ってたんだ? 私のこと嘘つきだって。頭がおかしいって」

「違う、そうじゃない。ただ、マリポーザ、お前はこの村にいるほうが絶対幸せなんだよ。帝都になんか行っても、良いことなんかない」

「そんなのカルロスが決めることじゃないでしょ? 嘘つきはカルロスのほうじゃない。

ずっと信じてたのに。カルロスだけが私の言ってること、信じてくれてるって。

 皆が私のことを嘘つきだとか、頭がおかしいって言ってた時も、カルロスはずっとかばってくれてたのに。本当はカルロスもそう思ってたんだね……」

 マリポーザは飲みかけのミルクのカップをテーブルに置いた。


「待てよ」

 追いすがる声に背を向けてマリポーザは走って村長の家から出た。玄関を開けると同時に冷たい空気が肺を刺す。吸い込んだ息が凍って少しむせる。


 やっぱり誰も信じてくれてなかったんだ。

 ショックを受けながらも、それでも心のどこかでマリポーザは納得していた。本当は知っていた。それでもカルロスだけは自分を信じてくれていると、信じていたかった。



 帝都への出発の日は二日後に決まった。マリポーザが帝都に持っていくための荷物を自室で用意していると、部屋のドアがノックされ、マグダレーナが顔を出す。

「カルロスが家に来ているよ」

「会いたくない」

 マリポーザは首を振った。まだ許せない。裏切られたという気持ちが大きすぎて、とても会う気になれなかった。


「でもお前……」

「別に、一生の別れとかじゃないし」

 マリポーザの硬い表情に、マグダレーナは折れた。

「本当にいいんだね?」

「うん」

 少し胸が痛んだが、怒りのほうが勝った。


 マグダレーナが部屋から出て行く。扉の向こうでマグダレーナとカルロスが会話をしているのを、マリポーザは部屋の中で聞いていた。そして玄関の扉が閉まった音がした。


 マリポーザは窓に近寄り、家の外をそっと伺った。雪の中だんだんと小さくなっていくカルロスの背中を、窓の中から見送る。その背中を走って追いかけたい衝動にかられる。しかし、追いかけた後に謝りたいのか、それとも罵声を浴びせたいのか、どちらなのかマリポーザは自分でもよくわからなかった。

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