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いつものように、一頻り私を攻め立てた男がようやく落ち着いて、元々動こうとする気力もない私を逃がさぬとでもいうようにぎゅうっと抱きしめる。
「いたい」
私の言葉を無視してしがみつく男。
「ねぇ、放して?」
一旦体勢を整えたくて言う私に、男はいやいやと胸に押し付けた顔を振る。さっきまで散々弄られ高ぶっていた私には、その掠めるような刺激ですら無駄に響いてたまらなくなるが、懸命に何も感じてない振りをする。
「おねがい、ずっといるから、少し放して」
頑なに私を放さぬ男に、ひとつため息が漏れる。
思ったより大きく響いたその音に、男の肩がびくりと跳ねた。
「放してくれなきゃ逃げ出すよ」
言ってすぐ、しまった、と口を押さえたが少し遅かった。涙に濡れた男の瞳には、炎が宿っていた。
どうやら、言葉選びを失敗したらしい。前回はこれで放してくれたから、油断した。
「逃げるの?」
上体をあげ、私を見据えた男は、ねっとりと圧し掛かりながら耳元に唇を寄せる。
「君まで、俺をおいて逃げるの?」
「逃げないよ。逃げないから力緩めて。痣になっちゃう」
男の大きな手に纏めて縫いとめられた手首が悲鳴を上げるが、人の話を聞かなくなった男が気が付くことはない。
「いやだ、いやだよ。亜美だけは絶対に逃がさない」
涙でぐちゃぐちゃな顔に狂気の炎を滾らせた男は、痛みに身を捩じらせる私に噛み付き、容赦なく何度も穿つ。耐え切れなくなった私が気絶する直前、私の耳に届いたのは震えるようなか弱い声だった。
「亜美……。亜美だけは俺を捨てないで……」