プロローグ
ちょっと、第三者目線の文章の練習に書き始めました。
良かったら読んでみてください。
虫や鳥の鳴き声が微かに聞こえ、日は傾き始め、木々の影も伸び始めたそんな森の中。
茂みに身を隠し、こっそりとその視線の先を覗く男あり。
身の丈は大樽二個分。髪は薄い土色で、目や口には皺がなく、まだ若い。
何が嬉しいのか男の口元は曲剣のように曲がっていた。
男は猫の用に背を丸め、目を凝らして、「獲物」を捉えている。
「ひーふーみー……、6匹か。予想よりも多いけど、なんかとかなるだろ」
男は獲物に気づかれない程度の小声でひとり言を呟く。
男の獲物は子鬼と呼ばれる亜人であった。
子鬼は人間種の子どもほどの大きさだが、武器を携えて戦え、知能は低いが見た目以上に腕力がある。
また、繁殖力も高く、子を身篭ればひと月で5~6匹生まれてくる。
1対1ならば、多少武芸に心得があれば負けるようなことはないが、基本的に集団でいることが多く、なかなかに手強くなる。
そんな子鬼を6匹も見て、男は恐れず「獲物」と捉えている。
「さて、はじめますか」
そう言って、男は左腕に装備したショートボウガンを構える。
そして、狙いをつけたと同時に引き金を引くと、矢は風を切り、寝転がっている子鬼の後頭部を貫いた。
「ぎゃう!」
矢を受けた子鬼は一声叫ぶと、脱力したかのように地面に伏した。
そのことで、その周りにいた子鬼が一斉に身を起こす。
「ほい。二匹目っと」
男は今度は腰に携えた単発式の片手銃を素早く抜き、ボウガンのついた左腕を台座にして、銃身をその上に置き、発砲する。
鈍い爆発音と共に、一匹の子鬼の眉間が弾丸によって貫かれる。
音の方向に残りの4匹の子鬼が気づく。
しかし、その時には男はわざと見せるかのように走って逃げてゆく。
怒り狂った子鬼たちは武器を手に取り、男の後をまさしく鬼の形相で追いかけていった。
男は身軽な様子で森道を駆けていく。
後ろには横に広がった子鬼たちが追いかけくるが、男は軽い足取りで、近づけさせず離さずといった様子で逃げていく。
「おっと、この辺か」
男は予め目印をつけていた木を確認すると、逃げる速度を落とす。
そんな男に飛びかかろうと子鬼が接近する。
「ほらほらこっちだぞー」
わざと怒らせるかのように男は後ろを向いて、子鬼を茶化す。
激昂した子鬼は男に迫ると大声で鳴きながら武器を振り下ろした。
しかし、子鬼が振るった武器は男をとらえず、土の壁に刺さった。
何が起きたのかわからず、子鬼が光がある上を見上げると、そこには鈍く光る鋭い剣先が見え、そして、子鬼は絶命した。
「ふぅ。これで3匹っと。お、来たか」
男が落とし穴にはまった子鬼を刺した剣を抜くと、残り3匹が追いついてきた。
3匹の子鬼はすぐさま男を囲むように展開する。
男は剣を構えると、小声で呟き始めた。
子鬼たちは隙ができたと思い、ほぼ同時に男に飛びかかる。
男は先行してきた一匹子鬼の短剣を己が剣で受けると、身を翻して左足の裏を2匹目の子鬼の眼前に持っていく。
「フレイム」
魔法を扱うものであれば、最初に覚える下級攻撃魔法「フレイム」。
射程は短いものの生き物を殺傷する力のある炎を顔面と開けた放った口にいれられ、2匹目の子鬼は悶える間もなく絶命し、そして、身を翻し、呪文を放つと同時に男は剣を持つ手とは反対の手で、腰ある解体用のナイフを抜き去り、剣で受けた子鬼の延髄を切り抜いた。
ほぼ同時に、2匹の子鬼は地に伏した。
「足からだって魔法は打てるんだぜ?」
そして、6匹いた最後の子鬼は魔法が発動した瞬間に警戒するように足を止めていたため、生き残っていた。
「ぴ、ぴぎぃ!」
生き残っていた子鬼は、勝てないと察したのか、仲間を呼ぶためなのかは不明だが、男から逃げ去ろうと試みる。
「おいおい、お逃げなさんなって!」
男が腰に刺した投げナイフを投擲すると、それは見事に逃げようとする子鬼の後頭部に突き刺さり、地面に崩れた。
「おし。これで依頼完了っと」
男は、そうまたひとり言を呟くと。
解体用のナイフを取り出し、手袋をして、すでに息絶えたゴブリンの左耳を一匹ずつ切り取っていく。
さらに素材として売れる子鬼の角も切り取っていく。
元の場所まで戻り、6匹分の耳と角を服に血がつかないように皮袋に慎重にしまい込み、男は空を見上げる。
「もう日暮れが近いな。帰るか」
そう、またひとり言を呟いて、男は帰路に着く。
「今日はちと贅沢な夕食にするかなぁ」
帰路の途中。男は今夜の自身の夕餉を想像しながら、歩いて行く。
この男、名をランドウ。
日々、依頼をこなし、己の食い扶持を稼ぐどこにでもいる冒険者。
このただ平凡で、少し潔癖症な冒険者が、後々「勇者」や「英雄」と呼ばれるようになるのだから、まったくもって、世界は不思議に満ちている。