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前へ、それでも前へ 【4】

 ルーザーが掌から先制の光弾を乱射する。ベベルの左手に藍色の光が集まり、高速で動き回って光弾をことごとくはたき落としていく。これが足止めだと理解しつつベベルは逃げ出せない。なぜならベベルの背後には守るべき巨塔が位置しているからだ。

 後退を続けるレックは屋上の縁から空中へと身を躍らせた。手甲が下から掬い上げるような一撃を繰り出し、手甲の先端から伸びた黄金色の爪がビルに突き立てられ、高層ビルの一区画が巨石となって投げつけられる。

 光弾の嵐を迎撃し続けるベベルは機を見ての後退を考えた。ルーザーからの攻撃をビルに肩代わりさせようという算段だ。

 しかしベベルが行動を起こすより早くレックがビルを銃撃した。一撃でビルがバラバラに粉砕し、無数の瓦礫とさらに銃撃の嵐が殺到。前方と真横からの十字砲火がベベルに襲いかかる。

「私の異名が〝嵐〟で〝殲滅者〟であるのを、まだ今一理解していないようだな!」

 ベベルが四肢を閉じ、まるで赤子のように体を丸めた。全身が藍色に発光し、「うおおっ!」という雄叫びとともに全方位へと楔を解き放つ。光弾と瓦礫の千倍にも万倍にも達する楔の嵐が全ての攻撃を迎撃して粉砕。同時にレックとルーザーへの攻撃をも敢行し、二人に楔が襲いかかる。

 攻撃を終えたベベルの肩は荒く上下していた。顎を冷たい汗が伝っている。超広範囲への無差別飽和攻撃だ。殲滅力が高い反面、消耗が激しく乱用のできない切り札なのだ。

 上下するベベルの肩がぽんぽんと気安く叩かれた。ベベルが思わず振り向いた先にあったのは全く笑っていないフィフニの顔と、頬に突き刺さった人差し指。

「琶家伝統殺法〝俺の後ろに立つんじゃない!〟」

 指は頬に埋まっただけではとどまらず、力任せに押し通された。首が捥げるほどの衝撃でベベルは頭からふっ飛ばされる。

 フィフニは空中の自分にどうやって音もなく接近したというのだ? ベベルは宙を飛ばされながらもフィフニに視線を向け、驚愕に目を見開いた。

 フィフニは空中に立っていた。正確には、空中に飛び散った高層ビルの残骸の上に立っていたのだ。

「瓦礫を足場にして飛び渡ってきただと⁉」

 フィフニの手には黄金が握られていた。なにかと思えばレックの手甲の指の一本だった。手甲の指からは鎖が伸び、ベベルの横を通り抜けて背後へと続き、レックの手甲へと繫がっている。

「まずは動きを止める。定石だろう?」

 鎖が螺旋を描いてベベルに巻きついて拘束。同時にレックが鎖を巻き上げ、その勢いを利用して飛翔してきた。手甲の四指が揃えられ、黄金の爪が一体化して巨大な刃となる。空気分子すら焼け焦げる凄絶な刺突が放たれた。

 黄金の爪剣はベベルに突き立ち、しかし次の瞬間、ベベルはしてやったりの笑みを浮かべてレックの前に立ちはだかっていた。体を拘束していたはずの鎖はバラバラに破壊されている。ベベルは自身を拘束する鎖で刺突を防御し、同時に攻撃を利用して鎖を破壊していたのだ。

 レックが二の太刀を繰り出すより早く、その顎が蹴り抜かれていた。ベベルは手甲から伸びる鎖を摑み、振り回して、レックをフィフニへと投げつける。

 フィフニはレックを踏み台にして跳躍。逆にレックは真っ逆様に落下した。上昇したフィフニは太陽を背に、真下のベベルへと苦無を投擲。対してベベルは自らの頭上に大量の楔を生成。楔の層が遮光幕となって陽光を緩和し、迫る苦無を掌で弾いて、さらに左腕を翻してフィフニの手刀を防御する。

「冷静だな。普通は仲間を受け止めようとするものだが」

「受け止められはしたんだろうけどね。それよりも追撃のほうが怖かったからそっちの阻止を優先させてもらった」

 ベベルはほんの少しだけ後退した。たったそれだけで支えを失ったフィフニは重力に摑まって空へと落ちていく。眼下には同じように落下を続けるレックの姿があった。これで残るは一人だ。

 そこでベベルは気がついた。先ほどからルーザーが攻撃に参加していないことに。

(やつらの優先順位は私を倒すことか? 断じて否!)

 ベベルの視線は直感的に巨塔へと向けられた。思ったとおり、巨塔へと向かうルーザーの後ろ姿がある。

「させるかよと、言っただろうがあっ!」

 怒号を上げたベベルが掌を天空へと突き上げた。手の先に藍色の光が集まり、柱ほどもある特大の楔が生成される。ベベルの腕が突き出され、ルーザーの背中目がけて楔が放たれた。

 ルーザーは背後を見もせずにそれを回避した。ベベルが目を見開き、ルーザーは水泳のような最小限の動きで方向転換。再びベベルへと舞い戻ってくる。巨塔に向かうと見せたのは陽動だ。

「しまっ……」

 ベベルが気付いたときにはもう遅い。両脚に無数の鎖が巻きついて完全拘束されている。鎖は当然、眼下のレックが装う手甲へと繫がっていた。

 さらに下方から急速接近する影がある。フィフニだ。フィフニの手には最前に投げられたはずの苦無が握られ、苦無からは糸のようなゴムが伸び、ゴムの先は巨塔に突き立てられたもう一本の苦無へと繫がっていた。ゴムの収縮を利用して飛び上がったフィフニがすれ違いざまにベベルへ手刀。ベベルの脇腹が抉られたように陥没する。

 すでにルーザーは目の前だ。飛翔の勢いもそのままにベベルへと突撃し、左拳を突き出してくる。

 次の瞬間にはルーザーの左腕がばらばらに粉砕されていた。肉片が宙に飛び散り、体勢を崩したルーザーの背中に藍色の楔が打ちこまれて腹を貫通。

 当のベベルは左腕を突き出して迎撃の態勢を取っていた。しかし明らかに先ほどまでとは性質の異なる一撃だ。ベベルはまだなにか奥の手を隠している。

 次いでベベルは眼下のレックに向けて楔の豪雨を撃ち放った。レックは鎖を切断し、銃撃の反動を利用して空中を移動。しかし追いつかれて呑みこまれてしまう。

 ルーザーの返り討ちにも冷静にベベルの背後に忍び寄っていたフィフニへと、ベベルの肘鉄が叩きこまれた。

「貴様が冷静なのは分かった。だからこそ冷静に私を狙いにくると予想できる」

 ベベルはフィフニの腕を摑むと背負い投げ。逆様の大文字となったフィフニに楔が放たれ、しかし空中を駆けてきた黒馬がフィフニを受け止めて退避していく。

 フィフニが黒馬の蹄から炎を噴射させ、ルーザーが光を放って、それぞれ空中に静止。レックは巨塔の壁面に黄金の爪を突き立ててしがみついている。

「貴様らがなにをしようがもう遅い」

 巨塔の発する唸り声は最大限に大きくなっていた。それは大地の悲鳴か、あるいは魔物の咆哮のようにも思えた。三人の体を絶望の冷や汗が流れ落ちていく。

「今がエデンズ・ファクター、発動の瞬間だ!」

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