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宿業 【4】

火と黒煙に彩られた空を二つの流星が落ちていく。流星は前方に聳え立つ高層ビルの、それぞれ百四七階と百三九階の壁に激突。壁を突き破って内部へと突入する。

 流星の一方、フィフニは一度床に足を着けると同時に再跳躍。空中で風車のように後転して落下の勢いを消し去り、胡坐を組んで床に着地する。

 フィフニの手には竹筒が握られていた。竹筒から出た紐を引っこ抜くと、すぐに竹筒が熱くなる。竹筒を二つに割り、杯となった一方に、水筒となった一方からのお湯を注ぐ。印籠から取り出した小袋を湯に放りこむと、緑茶の緑が広がっていく。

 湯気を上げる杯の隣には笹の包みが置かれていた。包みを開けると、中から甘い蜜がふんだんに塗られた串団子が数本現れる。

 団子を口に銜え、一つ、二つと竹串から引き抜いて咀嚼する。団子の味に舌鼓を打ち、熱い緑茶を喉に流しこんでいく。串は適当に投げ捨てた。

「ふぃ~。休憩終わり」

 フィフニが至福の吐息を漏らした直後、天上をぶち抜いてファルマンが出現した。ファルマンは下降しながら大剣を振り下ろし、床上を転がって刃を回避したフィフニが手の中の釦を握りこむ。着地するファルマンの足元には団子の竹串が散らばっていた。竹串が爆発を起こしてファルマンが体勢を崩す。

「これしきで私を止められるものかよ!」

 しかしファルマンは全身の筋肉と体幹を駆使して瞬時に体勢を立て直した。床上を這うような低空姿勢で走りこんできたフィフニへと大剣を繰り出し、応じてフィフニも得物を振り上げる。

 次の瞬間、ファルマンは頭からふっ飛ばされていた。理解不能の事態に目を白黒させつつ、体は自らの意思を持っているかのように自然な動作で受け身を取って衝撃を分散。瞬時に立ち上がってフィフニを見る。

 フィフニの握る得物が小太刀ではなくなっていた。新たに握るのは巨大な刀身と長い柄まで黒一色の大刀、長巻だ。

「思ったんだが、ボクに優位性のある速度で対抗しても決定打には浅い。だったらチミに勝り得るバカ力でぶん殴ったほうが効果的なのではないだろうか?」

 破砕音。ファルマンの握る大剣が割れ砕けて破片が散らばる。

 長大な長巻を肩に担いだフィフニが走りこんできた。大上段から瀑布のような振り下ろしが放たれ、ファルマンが避けて、突如として長巻の軌道が急速変変換。ファルマンの真横から毒蛇のような切り返しへと変化し、ファルマンの横っ腹に叩きこまれ、異音が響く。長巻の切っ先はファルマンが籠手に装った円盾によって防御され、盾の表面を削りながらあらぬ方向へと受け流されてしまった。

 がら空きとなったフィフニの腹部にファルマンの逆拳が繰り出され、瞬時に反転した長巻が迎撃に向かい、両者は示し合わせたように後方跳躍して致死の一撃から脱出。直後にフィフニは膝を着き、ファルマンの二の腕から出血が起きた。フィフニが手で押さえた脇腹は拳の形にへこまされ、ファルマンの体から砕けた鎧の破片が零れ落ちる。

「《厂処黒》か。思えばこれが私たちの始まりだった。因縁の品というやつだな」

「因縁か。あるいは運命、宿命……呪縛と言い換えてもいい。ともかく、十年前に《アーク教団》が厂処黒を奪いに現れた日からボクたちの戦いは始まったんだ。決着をつけるのにこれほど好都合な物もないだろう」

 フィフニが長巻での連続突きを放ち、ファルマンが円盾を掲げて連続防御。後方跳躍して距離を取るファルマンを逃さじと、繰り出される刃が進路上の全てを微塵と刻んで追いかける。

 流血の死闘を続けながら、二人の口元はどこか懐かし気な笑みさえ浮かべていた。

「厂処黒、代々琶家が秘匿してきた最高機密でありながら、誰もその力も使いかたも知らない正体不明の葬星器か」

「正体も使いかたも知らないのは《アーク教団》も同じだろ?」

 フィフニはにやりと笑みを浮かべた。小馬鹿にしたような、含みのある笑みだ。

「いや、正体も使いかたも知っている」

 しかして続くファルマンの言葉は予想外だった。思わず力の抜けた長巻の刀身をファルマンの両掌が挟んで止める。

「十年前の琶家襲撃は鬼子の手引きだと知っているはずだ。ならば当然、厂処黒についてある程度の知識は持っているのさ」

 にやりと笑うファルマンの表情を、鎧から放たれる火花と紫電が凄絶に彩った。

「《厂処黒》とは、《葬星禁器》を破壊するために作り出された〝葬星禁器殺し〟の葬星器だ。総数は四十九体で、それぞれが四十八の禁器と厂処黒自身に対応している。そして厂処黒を使える唯一無二の存在こそ鬼子というわけだ」

 ゼッペルの腕が箸による攻撃で朽ちたのも、箸の厂処黒が人型に対応していたからだ。

「要するに鬼子とは厂処黒を使うため人工的な調整を施された人間とその末裔であり、琶家は鬼子を囲う巨大な実験場だったわけだ。琶家は世界でも類を見ない気候に富んだ地域で、かつ島国であり外へ出ていきにくいため実地試験には最適だったのだろうな」

 琶家において鬼子が忌まれている根源は二つある。一つは実験動物としての蔑視。そしてもう一つは《葬星禁器》すら破壊する《厂処黒》を扱えることへの恐怖と畏怖。この二つが長い年月によって理由を忘れられ、形骸化した忌避感情となったのだ。

「それを知っているからって!」

 フィフニの口から怒号が放たれる同時、ファルマンは力任せに長巻を捻っていた。フィフニの足が床を離れて空中で上下逆様となり、しかし長巻を握った腕を支点に回転。ファルマンの側頭部目がけて回し蹴りを放つ。蹴り足の指には小太刀が挟まれていた。ファルマンは大きく後退して距離を取り、フィフニが追撃のために走り出す。

「本当に使えないと思っているのか?」

 次の瞬間、フィフニは急速停止していた。理由は分からない。しかし、正体不明の悪寒がフィフニの心臓を鷲摑みにしたのだ。

 ファルマンの右手が持ち上げられ、自らの右こめかみをとんとんと叩いた。

「どうして私が、十年前の作戦に投入されたと思う?」

 ファルマンの右目は赤かった。まるでフィフニと同じ色だ。

「ま……さかっ……」

「私にも鬼子の血が流れているんだよ」

 ファルマンの手には黒い塊が握られていた。黒い塊が展開し、両腕を覆って、黒一色の籠手となる。

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