宿業 【3】
レッチェルは墜落し続けていた。しかし、ただ手をこまねいて落ちるに任せていたわけではない。レッチェルは空中で姿勢を整えると、手甲を上空の回廊に立つレックに向けて突き上げた。手甲の五指が五本の爪となって射出され、導線を伸ばしながら上昇。
「ちいっ!」
レックは回廊上を走って逃げ、迫りくる爪を次々と回避していくが、追尾を振りきれずに追いつかれてしまった。レックの足首を導線が絡め取り、瞬時に電撃が襲いかかる。
「ぐぎゃああああああああああああっ!」
空中回廊に着地したレッチェルの横を、電撃に焼かれて悲鳴を上げるレックが逆に落下していった。真っ逆様に落ちていくレックの下方には、馬に跨った騎士が天高く旗槍を掲げる像が配置されている。
思わずレッチェルが視線を逸らした直後、湿った音が響き渡った。レックの右胸が槍に貫かれ、早贄のように空中に吊り下げられていた。
「あ……あ……あっ……」
レックの口から不明瞭な声が漏れた。血に染まった腕が持ち上げられ、そして握った銃口が天に向けられる。
「がああああああああああああああああああああああああっ!」
レックの喉から獣の雄叫びが迸ると同時、指先が引き金を引いていた。狙いを定めもせず、闇雲に、出鱈目に、見境なく、引き金を引き続けて銃を乱射しまくる。
「ああああああああああああああああああああああああ!」
銃撃の反動で胸を貫いた槍はさらに深く食いこんでいく。自らの流血がレックの全身を赤く染めていくが、それでも引き金にかけた指は止まらない。
怒号と銃声と光弾が連続する中を、レッチェルは必死になって逃げていた。レッチェルを捉えられずに流れ弾となった光弾が周囲のビル群を手当たり次第に破壊していく。
「ああああああああああああああああああああああああっ!」
そして唐突に銃撃は止まった。レックはなおも引き金を引き続けるが、銃は軽い音を立てるだけ。銃身からは蒸気が上がり、限界点に達して安全装置が作動したのだ。
ようやく死の弾幕から解放されたレッチェルは「ふぅっ」と安堵の息を吐き出した。その直後だ。心臓が凍りつくような悪寒が背筋を駆け抜けていったのは。
レックは血に染まった顔でにやりと笑ったのだ。
二人に覆いかぶさる無数の影。振り返ったレッチェルが目にしたのは、自分たち目がけて降り注いでくる瓦礫の豪雨だ。いや、瓦礫なんて生易しいものではない。一抱えほどのコンクリート片は勿論、中には家屋を超える大きさの塊や、折れたビルその物までもが向かってくる。レックの銃撃によって破壊され、倒壊したビル群が、計算された軌道に沿って二人に襲いかかってきたのだ。
「無理心中⁉」
「さすがは女子。そんな発想が出てくるたあ浪漫屋だな」
避ける間もなく二人に瓦礫が降り注いだ。瓦礫は空中回廊をへし折り、ビルを砕いて、爆発的に瓦礫を増産しながら一気に地表まで到達し、そして重低音。二人のいた地点を中心として地表に蜘蛛の巣のような亀裂が走っていった。亀裂は瞬く間に肥大化して、ついに地表が抜け落ちる。
ゴルタギアの地下には巨塔の整備のための通路が根のように張り巡らされている。瞬間的な加重と衝撃によって通路が崩落し、地表をも巻きこんだのだ。
大量の瓦礫と土砂とともに、レックとレッチェルも穴の奥底へと呑みこまれていった。




