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自らを縛りつける者たち 【10】

 やがて再び、二人の前にアミの姿が現れる。

「少人数ならともかく、大人数を移送するには何隻もの船が必要不可欠なのでな。貴様らを殺して奪い取らせてもらう」

「ま、待て。待ってくれ! 私たちは手を引く! だから命だけはっ!」

「醜い」

 涙と鼻水を垂れ流しながらのフォルルーガの懇願を、アミは一言で切って捨てた。

「人の命の輝きは魂の気高さだ。魂の輝きなき者に命などない」

 アミが疾風となって走り出し、フォルルーガは狂ったように糸を乱射。アミの四肢に装われた巨大な掌、〈エクリプス・オブ・ダークネス〉の左右の指から二挺の拳銃が出現。アミが拳銃を前方に向け、さらに掌の指もフォルルーガに向けられる。

 二十二の銃口から放たれた弾丸が蝗の大群となって飛翔した。弾丸は雀蜂のように軌道を変化させ、糸のことごとくを空中で撃墜。装束に糸屑の一本すら付着させることなく、アミはフォルルーガの懐に入りこんでいた。

 巨大な掌が握られて拳となる。

「貴様らの放つ命の輝きなど星々の光とは比べものにならん。星屑どころか塵芥だ」

 巨大な拳がフォルルーガの全身を殴りつけた。しかし今度は殴り飛ばされない。フォルルーガの体はその場で木端微塵に爆散した。肉塊よりも小さく、肉片よりも小さく、細胞の一つに至るまで粉々の塵と化す。

 通路の一角はかつてフォルルーガだった血痕によって真っ赤に塗り潰されていた。しかしどうしてか、アミだけが返り血の一滴も浴びることなく元の色を保ったままだ。

「さすがにここまで破壊すれば再生しまい」

 巨大な手の二十本の指が二十の頭を持つ火竜の首のように動き、火炎を放射してフォルルーガの痕跡を念のために完全焼却。

 そしてアミの視線がシーザッツに向けられた。

「う、う、うああああああああああああっ!」

 シーザッツは悲鳴を上げ、逃げ出し、その背中にアミの蹴りが突き刺さった。シーザッツは通路の壁に叩きつけられ、壁を破壊して宇宙空間に投げ出されてしまう。

 凄まじい勢いで空気が吸い出されていくがアミは微動だにしない。補修剤によって穴が塞がれたのを見計らって歩き出す。

 ふとアミの足が止まった。目の前には破壊された蛇鎧の一部、蛇の頭が転がっていた。

「覗き見か。どいつもこいつも趣味が悪い」

『あら、ご免遊ばせ』

 機械を経由したように掠れた女の声が蛇の口から聞こえてきた。機械仕かけの眼球が動いてアミに視線を向ける。

「それで? 貴様は?」

『お察しのとおり、わたくしは《アーク教団》の者。そうですね、今のところは長石の仮面鎧とでも名乗っておきましょうか』

 女の名乗りに、アミはふっと笑みを浮かべた。

「長石…………砂の中で最も存在量の多い鉱物か。そして仮面、正体の秘匿。なるほど、諜報情報戦術官か。例外的に再生能力の高い葬星装、つまりは次世代型の試験機。それで計測値収集のための覗き見というわけだな」

『お相手が賢いと話が早くて助かります』

「それで? その仮面鎧のご婦人が何用かな? 実験体を殺された怨み言でも?」

『滅相もない。まずは戦いの勝者に賛辞を』

 通信機の向こうで、仮面鎧が会釈した気配が伝わる。

『それと、お陰でよい数値が得られました。ご助力感謝いたします』

 仮面鎧の言葉から皮肉の要素は感じられない。配下二人の命より、得られた試験結果のほうが重大なのだと心の底から確信している声だった。

『そして最後に忠告を。今回の件は得られた実証とこちらの不手際ということで目を瞑りますが、貴方がたの活動は、いずれ私たちとの全面衝突を招くでしょう。ですから心しておいてくだ』

「是非もない」

 最後まで言わせることなく、アミの足が蛇の頭を踏み砕いていた。アミの顔にあるのはただ静けさだけ。

「私たちは最初から、この星に生きる全ての民の敵となる覚悟で臨んでいるのだ。《アーク教団》だろうが《葬世者》だろうが、その他の何者であろうと、私たちの前に立ちはだかるのなら蹴散らしてくれよう」

 コートを翻し、アミは颯爽と歩いていく。

「我らが万人を救うためならば、何億、何十億でも命を積み重ねて見せよう。七年前にあの国を滅ぼしたときのように」

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