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自らを縛りつける者たち 【3】

 二つの影が跳ねるようにゴルタギアを移動していく。

 一人は青一色の着物。

 一人は赤と緑の全身鎧。

 二人はあちらからこちらへの転戦で負傷を重ね、全身を鮮血で彩っていた。それぞれに着物を破き、鎧を砕いている。

 進路上に倒壊したビルが瓦礫となって散らばっていた。フィフニは軽く跳んで瓦礫に足をかけると、そのまま真横に跳んでファルマンへと強襲! 射程の長い箸を突き出し、ファルマンは完璧に対応して小手で払いのけ、フィフニとファルマンの拳が交差。

 拳が互いの頬に叩きこまれ、衝撃が突き抜けた。フィフニは血反吐を撒き散らしながら路面を転がり、ファルマンは兜を粉砕されながらも踏みとどまる。

 口の端を伝う血にも無関心にファルマンが拳を連打した。拳圧の流星が猛禽の集団となって飛翔し、飛び起きたフィフニが分身して回避。フィフニの背後に乱立していたビル群が流星雨を受けたかのように蜂の巣となり、砂糖菓子のように次々と倒壊していく。

 ファルマンの葬星装、金緑玉の双鷲鎧に備えられた聖別特装〈隼の眼〉が起動。光学、音響、熱源、電磁波、そして重力。ありとあらゆる索敵を駆使してフィフニの所在を瞬時に割り出し、同じく聖別特装〈鴉の叡智〉が高速演算処理を行って移動の傾向を分析。

 フィフニの眼前にファルマンが先回りして、フィフニのぎょっとした顔が出迎える。ファルマンの両腕が肩の柄を握って、抜剣。肩当ての一部が変形して長剣となり、交差する斬撃の下をフィフニがくぐって、小太刀が繰り出され、翻った長剣が防御する。

「十年前も今回も拳を使ってきたから格闘主体かと思ったんだが……」

 ぎりぎりと極限の鍔迫り合いを繰り広げつつ、フィフニの脳は冷静に相手を分析する。

「どうも違うようだな。付け焼刃の剣技じゃない」

「私は《アーク教団》に勧誘されるまで剣闘士をしていたものでな」

 にやりと言って、ファルマンが長剣を押しこんできた。やはり膂力ではファルマンに分があり、フィフニの肌に刃が食いこんでいく。

「十年前は下っ端で武器の携行が許されていなかった。今回は手の内を隠しただけだ。むしろ私は武器を持ったほうが強い」

「なら武器を持たせなければいいんだろ」

 フィフニが後転して鍔迫り合いから脱出。両手で地面を摑み、上下逆様の体勢から回し蹴りを放つ。下駄が長剣を蹴り抜いて、二振りの長剣は半ばから折れて砕けた。

 その様を見つめるファルマンは意外そうでもない。葬星装の弱点は技術不足で再生能力が低い点にある。昨夜からの連戦で鎧自体の耐久性が低下していたのだ。

 ファルマンは使い物にならなくなった長剣の柄を投擲して、フィフニが回避。注意を払ったその一瞬で間を詰めて大剣を繰り出し、フィフニが弓で受け止めて防御。それでも打ち合いの衝撃だけでフィフニの全身から血が噴き上がる。

 フィフニは片手と片足で弓を支え、逆の手は矢を放っていた。ファルマンは首を動かして矢を回避し、風切り音に違和感。正体を確かめる暇もなくファルマンの体が真上に引っこ抜かれる。矢から伸びた鋼線がファルマンの首に巻きつき、さらに歩道橋を経由してフィフニの手に握られていた。フィフニが鋼線を引き、ファルマンの体が首から空中に吊るされる。

 ファルマンの鎧が背負った巨大な翼が羽ばたいた。炎を噴射して上昇し、鋼線に引っ張られてフィフニの体が空中に投げ出される。ファルマンの手が鋼線を引き千切り、攻城槌のような蹴りが放たれた。

 交差した腕の防御ごとフィフニの体が水平にぶっ飛んでいく。フィフニは背中からビルの壁に叩きつけられ、壁を突き破り、屋内に侵入。一度も床に足を着けることなく反対側の壁に激突し、再び屋外へと投げ出され、そして再び壁に激突して屋内へと侵入。それを何度も何度も繰り返していく。

 ようやく激突音が聞こえなくなり、フィフニは遥か彼方に建つビルの壁に背中を半ば埋めた状態で止まっていた。防御の腕は十本。五人に分身して威力を分散させていた。

 フィフニの口からは安堵の息が吐き出される。

「五手あればなんとか止められるか」

 そしてファルマンの右脚が血を噴いた。鎧の右脛が砕けて落ちる。

「それに六手あれば攻撃も加えられる」

 ビルにあいた大穴の彼我で、フィフニとファルマンはにやりと笑みを浮かべた。

「これでも剣闘士時代の私は、いわゆる天才少年と呼ばれていてな。全戦全勝、傷一つ負ったことがないのを誇りにしていたものだ」

 ファルマンが跳躍し、ビルにあいた大穴の縁に足をかけた。内臓を搔き回すような無遠慮さでビルの内部を歩いていく。

「その話って、面白いところ出てくるの?」

 一方のフィフニも壁から背中を引っこ抜いて跳躍。ファルマンと同じようにビルにあいた風穴の中を歩いていく。

「そのちっぽけな矜持を、貴様は粉々に打ち砕いてくれた」

 ファルマンの指先が右半面を走る傷を撫でた。

「当時は少なからず荒れたものだが、今となっては感謝すらしている。私の体を傷つけうる強敵手に出会えたことを素直に喜ぼう、とな」

 大穴を乗りこえて、フィフニとファルマンが同じ部屋の床に立つ。電灯の明滅する室内を挟んで改めて対峙した。

「だからこそ貴様は倒す。私の体に最初に傷をつけた男として、全身全霊で倒して貴様を超える」

「そっちの波乱万丈とか成長譚なんか知ったことか! ボクはボクの事情でお前を殺す。《アーク教団》も殺す。皆殺す!」

 二人は示し合わせたかのように駆け出した。

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