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ただ我らのための戦い 【4】

 一陣の風が吹き、土埃が引き裂かれると、そこには土の雨を浴びて土人形となったレックが立っていた。その後ろからフィフニとルーザーがひょっこりと顔を出す。

「お前らが俺をどう思っているのか、知ってはいたんだがな……」

 レックは年齢に似合わぬ老人の疲労感を口にする。

 大きく抉れて陥没した地面の中心に人影が立っていた。両手に翠色の長剣を握り、右半面を眼帯で隠した男、ファルマン・A・ダラクスだ。

 武具と同じ翠玉の左隻眼がフィフニを睨みつけていた。

「休戦はここまでだ。私本来の役目を果たさせてもらう」

 ファルマンの背後にはさらに二人の男が立っていた。迷彩服と、毛皮のコートを着こんだ二人組だ。相似形の顔からして双子だろうか?

「……そういうことか」

「どういうことだ?」

 頷いたフィフニにレックが訊き返した。

「あいつらの目的はゼッペルでもサーペントでもなく塔だった、ってことさ」

 ベベルの暴露は絶妙だ。

 ファルマンが共闘に応じたのは、ゼッペルが巨塔を破壊する恐れがあったからだ。しかし今度はフィフニたちによって巨塔を破壊される可能性が高くなった。

 ベベルは計画の全容を明かすことで、巨塔を利用しようとする勢力を即席の防衛戦力に仕立ててぶつけてきたのだ。

 フィフニの視線がファルマンから離れてベベルに向けられた。双方が睨み合っている間にベベルの姿は遥か彼方へと遠ざかっている。

「ルー君」

 呼ばれて、ルーザーがフィフニを横目にした。当のフィフニは澱みのない視線で一直線に前方を見つめている。

「先に行って」

 言葉が終わらぬ内に六人は飛び出していた。

 ルーザーが砲弾となって上空に飛翔し、させじと迷彩服の男が進路上に跳躍してくる。その男の足首をレックが摑んで強引に引き下ろし、フィフニに向かおうとしていたコートの男へと投げつけた。二人は絡まり合ったまま転がって、細胞分裂のように左右へ脱出。その中間をレックの放った光弾が駆け抜けていく。

 そしてフィフニとファルマンが激突。疾風と隼となって接近した二人がそれぞれの得物を鍔迫り合わせて火花と金属音が撒き散らされる。

「いいのか? 大都市を狙えば一撃で数千人が死ぬ兵器だ。その後の経済混乱も考えれば万人規模で死傷者が出る。片棒を担ぐほどの価値があるのか?」

「貴様らを殺して塔の破壊を阻止する。あいつも殺して発動を止める。なにも間違ってはいまい」

「そりゃそうだ」

 問答は終わりとばかりにフィフニの下駄が砂を蹴り上げた。視界を奪われるのを嫌ったファルマンが後退し、その隙にフィフニが横移動。

 疾風となって地上を駆けるフィフニの口元から空気音が聞こえた。足で巻き上げた小石を口に吸いこんで、呼気とともに飛礫として射出しているのだ。

 ファルマンの腕が高速で動き、指を弾き出して全ての小石を撃墜した。長剣が一閃され、お返しとばかりに斬撃が衝撃波となって飛翔。フィフニの跳びすさったあとの地面に一文字を刻みつける。

 フィフニとファルマンが再接近。小太刀が突き出され、左の長剣が受けて、小太刀が回転して長剣を右に受け流した。ファルマンの左手側を駆け抜けつつ小太刀が返され、ファルマンは喉首を狙ってきたそれを後転気味に上体を逸らして回避。体勢を崩しつつ右の長剣を無理矢理に繰り出して、二人が交錯。

 離れた二人が振り返り、フィフニの左肩が血を噴いて、ファルマンの右頬が裂けて眼帯が宙に舞った。

「……そういうことかよ」

 二人の戦況を横目にしていたレックは納得の頷きを行った。

 ファルマンの眼帯に隠されていたのは、額から瞼を縦断して頬にまで達する古傷だ。瞼がゆっくりと開かれ、紅玉の右目があらわとなる。

「その目、覚えているぞ……っ!」

 思い出されたのは〝炎の日〟。出血を押さえた指と流血の間からフィフニを睨みつける紅玉の右目だ。いつの間にか、ファルマンの頭上では紅玉の鴉鎧が旋回している。

「ふぁぁぁぁるまああああああんっ!」

「あぁぁぁぁぁぁるだああああああっ!」

 咆哮を上げた二人が十年来の決着をつけるべく大地を駆けた。

 走るフィフニの姿が無数に増殖する。高速移動と歩法による分身だ。フィフニは万華鏡のように出現と消失を繰り返しながらファルマンへと再接近していく。

 フィフニはファルマンに鴉鎧をまとわせるつもりなどない。フィフニの速度に対処できず棒立ちのファルマンへと一撃必殺の小太刀が襲いかかり、

 ファルマンが三日月の笑みを浮かべた。フィフニの背筋を悪寒が貫くが一瞬遅い。直後、ファルマンの腰に装われていた懸架帯が全身に広がって翠色の全身鎧となっていた。小太刀は鎧によって防御され、逆にファルマンの長剣が走る。

 大きく跳びすさったフィフニの足元で水音が弾けた。フィフニの左肩から右脇腹へと浅い裂傷が走っている。フィフニは痛みと不可解さに顔を歪めてファルマンを凝視した。

 ファルマンがレックの一撃から生還した絡繰りは、瞬間的に翠玉の全身鎧をまとって防御したからだ。しかし、

「どういう、ことだ? 個人専用に作られる葬星装は、一人に一体が原則のはずだ」

「今、種明かしをしてやろう」

 翠玉の全身鎧がさざ波となって引いていき、翠玉の隼となって分離した。九つの武具も隼の一部となっている。翠玉の隼が上昇し、紅玉の鴉と円を描いて旋回を始める。

 円の軌道が突如として直線に変じた。鴉と隼が真正面から相手に突っこんでいき、互いの体に嘴を突き立て、混ざり合うように融合を開始。全身に赤と緑を散りばめ、鴉と隼の頭部が鷲へと変化した。四枚の翼と四本の足、二つの首を持つ異形の妖鳥となる。

「これが私の《葬星装(アークライト)》」

 妖鳥が一直線に下降し、大口を開けてファルマンを呑みこんだ。赤と緑が螺旋を描いて上昇し、ファルマンの全身を斑模様となって覆っていく。

金緑玉(アレキサンドライト)双鷲(そうしゅう)鎧だ!」

 赤と緑に彩られた全身鎧をまとい、巨大な翼を背負って、九つの武具を装ったファルマンがフィフニの前に立つ。

「《アーク教団》が《十三弟》、序列六位ファルマン・A・ダラクス」

 ファルマンの名乗りに応じてフィフニも両の脚で立ち、二人が真正面から対峙した。

「さあ、十年前の」

「続きを始めようか」

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