ただ我らのための戦い 【3】
ベベルは電柱目がけて中筒を射出し、背後のフィフニに大筒を横薙ぎする。中筒が電柱に突き刺さり、杭が飛び出して電柱を破壊。大筒がフィフニの胴に叩きこまれて骨の砕ける鈍い音がこだました。ベベルとルーザーが交錯し、それぞれの四肢と得物が乱れ撃たれ、すれ違って離れていく。
地面に着地したルーザーが前のめりに体勢を崩す。ルーザーの左脚は脛から下が消失していた。断面から噴出した銀色の血液が失われた足を形成して瞬時に再生。
三人の連続攻撃を凌ぎきったベベルの顔には優越となによりも安堵が滲んでいた。レックとルーザーの挙動を警戒しながら、導線を巻き戻して中筒の回収を始める。
背後のフィフニが木偶人形に変じたのはその直後だ。ベベルの両目が見開かれる。
巻き戻していた導線に抵抗感。中筒には先の木偶人形が引っかかっていた。その木偶人形の内部からフィフニが飛び出したと気付いた瞬間にはもう遅い。フィフニがベベルへと飛びかかり、すれ違いざまに一閃。ベベルの頬が裂けて銀色の血が宙に舞う。
ベベルは頬の傷口に指を這わせ、次いでフィフニを睨みつける。フィフニの得物が箸から柄も刀身も黒一色の小太刀に持ち替えられていた。
「《厂処黒》、完成していたのか……」
フィフニとレックとルーザーが、再び正三角形の頂点となってベベルを包囲する。
ルーザーの口がぼそりと開かれた。
「磔刑に朽ちさらばえる《デッドレス・フルメタルハート》は、本来連装式じゃない一本だけのはず」
「つまり残りはあいつが複製したってわけだな。人間の技術や知識じゃ解析すらできないが、さすがは禁器製作者ってところか」
レックの表情は感嘆と畏怖に歪んでいた。それから「にしても……」と、苦々しく続ける。視線が落とされた黄金の剣は鋸のように刃毀れを起こし、黒鉄の銃も冷却が間に合わずに蒸気を上げてレックの掌を灼いていた。
「さすがに三体めの葬星禁器となるとキツイな」
「三体めではない。これは四体めの葬星禁器だ」
ベベルが口にした告白に、三人は思わず息を呑んでいた。
「言ったはずだ。ゼッペルが独断で考案した計画と、私本来の計画は違うと。ゼッペルが手中にしたサーペントは、本来なら計画外の四体めの葬星禁器だ。
では、私自身はどうやって人間を滅ぼそうとしているのだろうな?」
ベベルの指先が高く天空へと向けられた。真っ直ぐ天へと伸ばされた腕に重なるように、遥か天空を貫く巨塔の威容が聳えている。
「気付け。こんなにも高く巨大な塔を人智が作り出せると思っているのか?」
ベベルの言葉を受けて、フィフニとレックに理解が広がっていった。
「救世主、お前はかつてこの塔と同じ物を破壊したことがあるはずだ」
ルーザーはぼうと、ベベルの指を、その先にある巨塔を見つめた。思い返せば、最初からどこか奇妙な既視感があったのだ。しかし記憶の海はあまりも深く広大で、目的の情報を掬い上げることがままならない。
天を突く巨塔だ。青空を貫いてどこまでもどこまでも伸びていき、地上を睥睨する巨大な……滅びの塔?
「まさかっ⁉」
「思い出したようだな。この塔こそルガクシウスが作りし〝十億人殺し〟の滅びの塔、地厄なる《エデンズ・ファクター》だ」
「天災型、地震兵器かっ!」
ルーザーの怒号に呼応するように、巨塔が唸り声を発し始めた。
「すでに起動しているだと?」
「さすがに他人の作なので理解と調整に数百年も手間取った。六号機にはその間に邪魔が入るのを防がせていたというわけだ」
ベベルの腕が持ち上がり、今まで片手に下げていたゼッペルの残骸を高々と掲げた。
「あとは失われた動力炉の代わりにこいつを組みこめば世界を滅ぼす一撃を放てる。それがこいつの供養にもなるだろう」
「それをさせると?」
「させん、だろうな」
問答が終わると同時、ベベルの全身から藍色の光が放たれた。三人は弾かれたように攻撃を放つが、一瞬早くベベルは上空に飛翔している。
「救世主、お前との決着をつけよう。追ってくるがいい」
ベベルは一直線に巨塔へと飛び出した。その背を追ってフィフニとレックとルーザーが駆け出す。
ベベルの口元にはにやりとした笑みが浮かべられた。
「ただし、追ってこられればの話だがな」
「しゃらああああああああああああっ!」
敵意は雄叫びとともに落ちてきた。流星の勢いで天空から襲いかかってきた影が地表に激突。凄まじい衝撃で地面が揺れ、爆発するように大量の土塊と土埃が飛び散った。




