ただ我らのための戦い 【2】
ベベルは一歩動いて光弾を回避し、その一瞬の動きの隙を突いて三人がベベルに肉薄。フィフニが箸を、レックが剣を、そしてルーザーが拳を三方向から同時に突き出す。
ベベルの背中に再び筒が出現した。それも二本だ。左右の大筒がそれぞれフィフニとレックの攻撃を受け止め、ルーザーの拳は自らの拳で相殺。ベベルの体が円盤のように回転し、三人は無理矢理引き剝がされ、長い脚が槍となって突き出される。
フィフニは腕を交差して蹴りを防御し、威力を利用してベベルから距離を取った。追い打ちで投げられた藍色の楔は子供の腕ほどの大きさだ。フィフニは車止めの柵を蹴って逃げ、楔が柵を粉々に破砕する。
そこにレックが強襲してきた。大上段から剣を振り下ろし、ベベルは大筒を交差して防御。しかしあまりに重い一撃で踏ん張った地面に靴が埋まる。
「実際に手合わせするのは初めましてだな、《葬世者》」
「《葬世者》? 違うな。私は人間だ」
レックが怪訝さに眉根を寄せると同時、新たに三本めの大筒が出現した。脳天に振り下ろされてくる大筒を銃で受け止めた直後、四本めの大筒がどてっ腹目がけて突き出されてくる。転がるように大筒を回避したレックから「一体何本あるんだよっ⁉」と舌打ちが零された。
ベベルの全身が藍色の光を放ち、足が地表を離れた。低空を滑るように飛翔しつつ腕を突き出し、掌から藍色の楔が豪雨となって放出される。脚を渦にして逃げるフィフニを追いかけて楔の豪雨が地表を抉り、ビルや電柱や車や死体が砕かれて塵と化していく。
「人型六号機……ゴルタギアで言われるゼッペルは人間を超えた存在である自分こそが人間の世界を終わらせるのだと考えていたようだが、それは思い上がりというものだ」
楔の豪雨へとルーザーが飛びこんだ。ルーザーの全身も黒い光を発し、掌から放たれた黒い閃光が空中を駆けていく。黒と藍は両者の中間で激突! 黒い閃光が楔を消し飛ばし、藍色の楔が黒い閃光を削り取って、二つの力は拮抗して停滞。それぞれの力がぶつかる無色の閃光だけが吹き荒れる。
「人の世を滅ぼせる存在は、いつの時代でも人間だけだと決まっている」
ベベルの表情に堆積しているのは、星霜を経て巌のように固められた覚悟だ。
「私は人間として、人間の世界を滅ぼすと決めたのだ」
「……そう」
ルーザーは複雑な表情をしていた。自らを人間だと口にした弟の成長を喜んでいるようでもあり、それでもなお人間を滅ぼすとした決断を悲しんでいるようでもあった。
「君が人間として人間の世界を滅ぼすつもりなら、僕は私は人間として、兄弟として、君を止める」
「ああ、それでいい」
ルーザーから明確に敵対視されながら、ベベルは口元に笑みを浮かべていた。どこか満足げな笑みだ。
黒と藍色は当初こそ拮抗していたかに見えた。しかし徐々にではあるがルーザーの顔に焦りと苦痛が表れる。ルーザーの体が押しこまれ、踏ん張った両足が後退を始めた。
「単純な出力と破壊力という点では、私はお前よりも数段劣っている」
自分の不利を認めながら、しかしベベルの顔には余裕があった。
「しかしお前の放つ固有波動は対消滅。全葬世者中で最も攻撃能力に優れている半面、発したと同時に手当たり次第に対消滅して減少し続ける最も燃費の悪い力だ。
対して私の固有波動は増殖。一を発するだけで千にも万にも増えていく、全葬世者中で最も燃費に優れた力だ。
私とお前では相性が最悪なんだよ」
消耗戦を嫌ったルーザーが藍色の豪雨から離脱した。地上を疾走するルーザーを藍色の楔が追い駆ける。
「こっちが三人だってことを忘れるなよ!」
ルーザーに注意を向けていたベベルにフィフニとレックが飛びかかった。ルーザーも楔を避けつつ黒爪を投擲する。
「確かにサーペントとゼッペルを屠った武力を見過ごすことはできない。だが、」
フィフニの箸と下駄、レックの剣と銃撃と膝、ルーザーの放った黒爪は、ベベルの全身から新たに出現した無数の筒によって同時に防御されていた。
「それでもまだ私には届かない」
ようやくベベルが装っている葬星器の全容が摑めてきた。背中に四本の大型、腰に八本の中型を揃えた筒は多段式連装杭打機だ。懸架腕で接続された十二本の杭打機のそれぞれが蜘蛛の肢のような出鱈目さで二人に突き出され、咄嗟に箸と剣で防御するものの用を成さず二人は後方へと弾き飛ばされてしまう。
レックは一直線に飛ばされて、瓦礫の山に頭から突っこんだ。その衝撃で山の均衡が崩れ、極地地震が起きたかのように瓦解。レックの上に次々と瓦礫が雪崩れ落ちていく。
一方のフィフニは背中から地面に叩きつけられ、二度三度と跳ね上がり、そこで木偶人形に変化した。同時にベベルの背後にフィフニが出現する。
間を置かずに瓦礫の山が爆散。内部から出現したレックは全身赤一色だ。しかし眼光から生気と戦意は失われてはいない。
「うがああああああああああああっ!」
レックの全身が大きくしなって、雄叫びとともに根元で折れた電柱を投擲する。さらにルーザーが楔の弾幕を搔い潜りながら突っこんできた。




