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いつか見た嵐のように 【4】

 ファルマンは自らを摑まえようと伸びてくる巨竜の手から逃れていき、ビルの屋上に辿り着いた。

「石器ときたか。ならば私も応じねばなるまい!」

 なににどう反応したのか、ファルマンは自らの衣服を引き裂いて上半身半裸の原始衣装となった。

「ちょこまかと動き回ってくれるな!」

 巨竜が右腕を伸ばし、連なる鋼の羽が屹立。天にも達する大刀となった巨竜の腕が振り下ろされ、ファルマンは双剣を交差して巨竜の腕を受け止める。

「ぬがぁぁぁあああっ!」

 全ての重量と勢いを引き受けたファルマンの足裏は瞬時に床を粉砕。着地と同時に床を連続破壊して、落下するような速度で階層を突き抜けていく。

 巨竜の腕が屋上から地表までビルを一刀両断。ビルは左右に分断され、それぞれに傾斜して崩壊。轟音と粉塵が巻き上がる。

 朦々とした白煙の中に赤。全身からの出血で赤一色となりながら、ファルマンは両の脚で瓦礫の大地に立っていた。

「どうだ。止めてやったぞ」

 双剣が左右に開かれ、巨竜の腕を切断。手首が輪切りとなり、右拳がファルマンの背後に落下する。

 ファルマンは銃撃を続ける天に視線を向けた。心なしか不思議そうな顔をしている。

「……貴様は脱がんのか?」

 ファルマンの顔面に、無言で岩が投げつけられた。

 そして次に、ファルマンの勝ち誇った笑みがレックに向けられる。

「あの野郎、俺が列車を両断したのに対抗しやがったな」

 どうにもファルマンは負けず嫌いの気が強いようだ。

 鈍器を片手に街中を走っていたレックは、足に抵抗を感じて立ち止まった。視線を下げると足首を摑む手。下半身を瓦礫に挟まれた女が血塗れの子供を抱いてレックを見上げていた。

「お願いします、この子だけでも助けてください」

「は? なんだそれ?」

 レックは縋る母親の腕を踏み潰した。母親を見下ろす視線は冷酷でも無慈悲でもなく、汚物でも見ているかのように引きつっていた。

「自分たちの信じる神が掌を返したからって別の神に助けを求めるだと? それは虫がよすぎるんじゃねえか?」

 レックの言葉を聞きながら、母親の顔面は蒼白となっていた。目の前の男に被害者を助けるつもりが毛頭ないことを理解してしまったのだ。

 その点は他の二人も同じ意見らしく、全く犠牲に頓着していない。ファルマンは死体から剥ぎ取った衣服で乱雑に顔の血を拭い、大剣がビルごと人々を斬り捨てる。天の撃った流れ弾が人体を粉々にしていった。

「ゼッペルが言ったように、これはお前たちの自業自得だ。自分たちでなんとかしろ。できないなら指を銜えて死ね」

 レックが背を翻すと同時にビルが倒壊。母子の上に倒れていき、怨嗟と絶望の悲鳴が押し潰された。

「……なんだこれは?」

 ゼッペルの呟きは処理落ちが起きているかのように緩慢としていた。まるで愕然としているようだ。人間だったら視界が歪んでいてもおかしくない。

 無数のテイルペインが毒蛇の群れとなって天に襲いかかった。天は真上に右腕を伸ばして五指の先端から連続発砲。天空へと一直線に飛んでいった弾丸は急速に方向転換し、飛礫の嵐となってテイルペインの刃を粉砕して分身体たちを蜂の巣にした。

 巨竜の口から〝閃光の息吹〟が吐き出されるが、隼のように街中を駆けるファルマンを捉えられない。

 巨竜の尻尾が鋼の大波となって地上を薙ぎ払っていく。それに対してレックは鈍器を投擲した。巨竜の膝裏へと。巨竜の膝が砕けて体勢を崩し、巨竜とゼッペルは無様に転倒してしまう。

 レックの両手が腰に伸びてそれぞれの手に葬星器を握った。右手には黄金の剣、そして左手には前床部分を刃のように鋭く変化させた黒の銃剣を。

 三人が起こしている現象は、ゼッペルにとって全く理解できない未知の現象だ。

「どうして人間を超える存在の私が、救世主でもないただの人間に押し負けている?」

 ゼッペルの顔が見る見る歪んでいく。混乱を如実に表すように顔の部品が出鱈目に表情を浮かべていった。

「貴様は、貴様たちはなんなのだっ⁉」

 巨竜の全身にいくつもの穴があいた。筋肉が絞られ、荒れ狂う胸中のままに骨の弾丸が射出される。弾丸と言っても巨竜の縮尺からすれば戦車の主砲にも等しい大きさと速度だ。掠っただけでも人体程度は粉々に粉砕できる。

 骨の砲弾は豪雨となって周囲一帯に降りしきった。ビルも家も舗装路も、人間も動物も、そして自らの分身体すらも、ゴルタギアの街並みが瞬く間に蜂の巣となって粉々に砕け散っていく。瓦礫すらも連続する骨の砲弾によって瞬く間に微塵にされた。

 三人も崩壊するゴルタギアに巻きこまれて呑みこまれてしまう。

 焼け落ち、廃墟となったゴルタギアに立つのは、サーペントただ一体となっていた。

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