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いつか見た嵐のように 【1】

 ゼッペルによって操られた巨竜がゴルタギアを蹂躙していく。《夢見る欠片》に残されていた個体よりは小柄だが、それでも七、八階建てのビルに相当する巨体にとってはゴルタギアの街など砂細工に等しい。巨竜と接触するだけで高層ビルが押し倒され、家屋や車両が踏み潰され、そこかしこで炎と悲鳴が巻き上がる。

「くそっ、どうしてこうなった⁉ どうしてゼッペル様が我々を裏切りになるのだ⁉」

 逃げ惑う男の問いは、倒れてきたビルによって押し潰されて消え去った。

「裏切る? 違うな。これは貴様たちの罪だ」

 巨竜の尻尾が一閃して高層ビルに激突し、そのまま積み木崩しのようにビルが爆散。周囲一帯に瓦礫が降り注いで、さらに被害を拡大させていく。

「自分の頭で考えようとせず、盲目的に従うばかりだった飼い犬の罪だ。私が裏切ったのではない。貴様たちは自分たちに都合のいい私だけを見て、妄信していただけだ」

 巨竜が腕を広げてビルを摑んだ。まるで子供を胴上げするかのようにビルが根元から引っこ抜かれ、そして投擲。ビル同士が激突して地震のように大地を揺らし、爆発が起きて周囲一帯が炎に呑みこまれる。

「貴様らが神と呼ぶ数式も証明している。罪によって引かれた数は、罰によって足されなければ辻褄が合わないとな」

 巨竜の拳が無慈悲な鉄槌となって振り下ろされ、

 黒一色が天空を駆け抜けた。天を劈く轟音が響き渡り、巨竜が頬から体勢を崩して踏鞴を踏む。巨竜からは黒い影が離れていった。

「ぬううっ!」

 口から不具合のような苦鳴を漏らしたゼッペルが、敵意の視線で空中を睨みつけた。

 高層ビルの頂点から突き出た磔刑台のような避雷針の先端で爪先立ちとなった姿がある。全身を黒い装束で包み、瞳も髪の毛も黒一色の人物だ。長い三つ編みの髪の毛が風で乱雑に揺れ、黒曜石の瞳が静かに巨竜を見つめている。

 ゴルタギアの人々の目に彼はどのように映ったのだろうか? ある者の目には黒衣の聖者、ある者の目には調停を司る天からの使者、またある者の目には災いをもたらす悪魔に映ったかもしれない。しかし少々の学がある者ならば、こう喩えていたことだろう。

「やはり貴様が最初に私の前に立ちはだかるか、救世主!」

 ゼッペルの敵意など意に介さず、ルーザーは巨竜を一瞥。

「暴風の翼竜《タービュラー・サーペント》か」

 呟くルーザーの脳裏には、山吹色に茨の男が思い出されていた。

 そして目の前の巨竜が引き起こした数々の惨劇だ。今でも瞼を閉じればありありと思い出す。ゴルタギアの惨状など生温い。四十八ある葬星禁器の一体にすぎないサーペントによって幾つもの国が滅ぼされ、城塞が落ち、街が踏み荒らされ、野山が焼き払われ、誰も彼もが殺された。友も殺された。

「……破壊する」

 ルーザーから放たれる圧力が爆発的に増加した。握った拳に力がこめられ、前方を見据える双眸に宿るのは不退転の覚悟。

「全ての《葬星禁器》は破壊する!」

 そしてルーザーの全身から黒い光が噴き上がった。

「やれるものならな!」

 ルーザーの腕が一閃されるのと、巨竜の姿が消え失せるのはほぼ同時。直後に巨竜はルーザーの真横に出現した。ビルほどもある巨体からは信じられない俊敏さだ。巨体が捻られ、放たれた回し蹴りが高層ビルの屋上を生首のように消し飛ばす。

「こちらは《葬星禁器》、〝億人殺し〟の超兵器だ! たかが〝万人殺し〟や〝千人殺し〟とは、桁が四つも五つも違うのだよ!」

 咆哮するゼッペルの目の前でビルの断面が爆散し、瓦礫の下からルーザーが出現。直撃すれば肉塊に成り果ててしまう巨竜の蹴りを、下層に逃げて回避していたのだ。

 ルーザーの前方に黒い光が集中し、螺旋の円錐を無数に形成。ルーザーが腕を突き出すと、黒い螺旋錐が巨竜目がけて殺到を始めた。螺旋錐の大きさは大型の鮫ほど。刺されば人体を縦笛が貫くほどの負傷となる。

 巨竜の両腕が副翼に変じ、四枚の翼を広げて飛翔。黒い螺旋錐が巨竜の影を追い駆けて宙を舞う雀蜂の群れとなる。

 巨竜の飛翔によって生み出された衝撃波はそれだけでビルを根こそぎ薙ぎ倒し、家屋を押し潰し、車両を飛ばして、ゴルタギアの街を一直線の瓦礫へと変えていく。人体など一瞬で破裂し、ただの挽き肉へと成り果てていた。さらに瓦礫の上に黒い螺旋錐が降り注ぎ、ゴルタギアの街を二重に破壊。黒い螺旋錐が墓標のように突き立てられていく。

 巨竜を追いかけてルーザーも跳躍。黒い光が指向性を持ち、空中を飛翔していく。

「サーペントの躯体はギラザリア大峡谷に遺棄されていたはずだけど?」

「さすがによく知っている。なにせ貴様が破壊したのだからな」

 黒い螺旋錐を次々に放ちながら、ルーザーは脳内で地図を展開。ギラザリア大峡谷はサーペントのビルほどもある巨体さえ呑みこんでしまう深い谷だ。ゴルタギアからは車で一週間ほどの距離にある。崩落した土砂がサーペントを何人も手出しできない谷の底に埋葬していたはずだが、ゼッペルが掘り返してゴルタギアに運びこんだということか。

 巨竜が翼を羽ばたかせ、巨体が一瞬で上空に舞い上がった。巨大質量によって生じた影がルーザーを下敷きにする。そして一気に下降。超重量を存分に駆使して体当たりを仕かけてきた。

 黒い光がルーザーの両腕に集まり、ルーザーは両腕を目一杯に突き出して巨竜の体当たりを受け止める。しかしそこまでだ。激突の衝撃には耐えたものの、押し返すまでの力はない。速度を衰えさせることなく地上目がけて急降下を続ける。

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