地下錯綜 【5】
「この通路はどこまで続けば気が済むんだ?」
レオシュの言葉は疲労と不安に染まっていた。辟易したように悪態をついてみたものの、それが己を鼓舞するための虚勢に等しいのは明白だ。
一軒家の階段を下ってから、どれほどの時間が経ったのだろうか? 延々と続く通路は右折と左折と階段を何度も何度も繰り返して、しかし全く先が見えてこない。まさに迷宮と言うのが相応しいだろう。日の光が一切届かない地下では時間の感覚がおかしくなってくる。地上では朝になっていてもおかしくない。
レオシュは何度めかの分岐点に差しかかった。左の通路には砂埃が降り積もって人が通った形跡はなく、正面の通路は崩落によって埋まっている。レオシュはこれまでと同じように、残った右の通路を進むことにした。
通路は手入れがされているらしく埃一つ見当たらない。レオシュが通路を進んでいくと、壁の上部に位置する誘導灯がレオシュを先導するように点いては、追い抜かれたそばから消えていく。
それにしても古い通路だ。壁や天井は薄汚れ、あちこちに見られる亀裂や剥離は丁寧に補修された跡が窺える。
「どう見てもここ百年や二百年、ゴルタギア発祥後に造られたものではないな。五百年や千年、あるいはもっと昔……」
ということは、この通路も塔と同じく《人間戦争》時代の遺跡なのだろうか?
「そういえば小耳に挟んだ程度だが、ゴルタギアの地下には何本もの通路が埋まっていて、その全てが塔に繫がっているという都市伝説があったな。ゼッペルが資金と時間と労力の無駄だとして調査を許可しなかったらしいが……」
それではゼッペルは、あえて地下遺跡の調査をさせなかったということだろうか?
「増々ゼッペルにとって重要ななにかがある可能性は高くなってきたな。……うむ?」
それまで黙々と通路を進んでいたレオシュの足が止まった。通路の前方には光。光は縦に細長く伸びていた。それは地下に降りてから初めての扉だった。
「部屋があるのか?」
レオシュが近付いていくと、光は扉の隙間から漏れていた。
慎重に扉の隙間から内部を覗こうとするが、扉は近付いただけで自動的に開いてしまった。隙間があるから閉め忘れだと思いこんでいたが、どうやら通路か壁が歪んで閉まりきらなくなっていただけらしい。
幸いなことに人影は見られなかったが、室内にはそれよりも目を引く光景があった。
「なんだこの部屋は?」
まるでレオシュの理解が追いつかない。
部屋は一見してなにかの作業場を思わせた。あるいは最先端の研究室だ。部屋は用途の知れない機器や工具によって占領されていた。壁の地肌が見えなくなるまで敷き詰められた机や棚に、これでもかと詰めこまれている。部屋の中央には巨大な作業台が横たわり、なにかの設計図や数式や広げられているが、レオシュの知識ではなにが書かれているのかすら分からない。
「ここはなんの部屋だ? ここでなにをしているんだ?」
おそらくこの施設こそ、ゼッペルにとって最大級に隠し通さなければならない秘密が眠る場所に違いない。
レオシュが室内を詳細に調べようとしたそのとき、入ってきた扉とは部屋を挟んで向かい側に位置する扉が音もなく開かれた。レオシュは突然の事態に隠れることも逃げることもできずに固まってしまう。
姿を現した人物は部屋の主人だろう。人物は最初こそ驚いたように口を半開きにさせていたが、すぐに久方ぶりの訪問者に対して口を引き結んだ。
「お前は……っ⁉」
レオシュの目の前に立っているのは、この場にいてはならない人物だった。




