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地下錯綜 【4】

 それでもレックの対応は早い。大砲を手放すと自重に任せて落下させ、眼帯男の大剣と衝突させに向かわせた。眼帯男は大剣を引いて長槍を突き出し、レックは長柄を蹴りつけて迎撃。即座に反撃の拳を繰り出して、眼帯男は大剣で受け止めて防御。

「痛えなこの野郎っ!」

「熱かったぞこの野郎!」

 レックは怒号を放ちながら力任せに剣を振り下ろした。応じて眼帯男も大剣を振り抜き、二振りの剣は両者の中間で激突。そして凄まじい破壊が巻き起こされる。

 極地地震が起きたかのような衝撃が大地を震わせ、地表が捲れ上がって何本もの亀裂が走る。吹き荒ぶ烈風によって二人の髪の毛が搔き乱された。

 押しこまれていく剣がそれぞれの肌に食いこんで血を流させる。どちらからともなく漏れたのは口惜しさの舌打ちだ。

 戦いは長く続いていた。両者はその理由を今の攻防で確信する。

 レックとルーザーが人目を恐れて破壊を抑えていたように、眼帯男もなんらかの理由で全ての力を出していたわけではないのだ。互いに余力を温存したままの、子供のお遊戯のような戦いだった。

 しかし、さすがに騒ぎが大きくなりすぎた。もうじきここにもゼッペルの手が伸びてくるだろう。一刻も早くこの場を離れなければならないが、目の前の眼帯男がそうは許してくれそうもない。

「ねーねー」

 緊迫した空気の中に漂ってきたのはルーザーの呑気な声だった。二人は鍔迫り合いを続けたまま苛立ち混じりに視線を向けて、停止。

「可愛い生き物捕まえた」

 ルーザーが両手でかかえるのは愛くるしさに溢れた物体だった。髪の毛を頭の左右で尻尾にして、飾りっ気のない素朴なワンピースを着ている。年のころは六つか七つだろう。眠たそうな目でレックと眼帯男を見つめている。

 要するに女児だった。

「でかしたルーザー」

 レックは一瞬でルーザーに近付くと、銃口を女児のこめかみに突きつけた。

「貴様……っ!」

 眼帯男が見せた表情は激昂。人の道を外れたレックの行為に腹を立てていた。

「さてと。お前に良識があるのなら、この場はどう治めればいいのか分かるよな?」

「大の大人が守るべき幼子を人質に取るとは、この外道め。恥を知るがいい!」

「お前、自分が半裸の人殺しだって自覚はあるのか?」

 レックは悪い冗談でも聞いたかのように呆れ顔をした。半裸の人殺しはレックも同じだというのに。

「分かっていると思うが、動くなよ」

「心得ている。怒りに身を任せて子供を蔑ろにするほど愚鈍ではない。それよりも、貴様こそ分かっているのか?」

「なにがだ?」

 じりじりと後退を続けていた二人は、この時点で眼帯男から充分すぎるほどの距離を取っていた。短距離走の名手といえども容易には手を出せない距離だ。

「その子供に毛筋ほどの傷でもつけてみろ? 私が両親に代わり、全身全霊をもって貴様を成敗してくれる」

「ああ、そんなことか。安心しろ。最初からこいつは身内だ」

 目の前の男はなにを言った? 一瞬だけ眼帯男の理解が追いつかなくなり、その結果として明後日の方向から投げこまれてきた球体への対処が遅れた。

 眼帯男は咄嗟の反応で球体を両断するが、すぐにそれは失策だと気付いた。投げこまれた球体から敵意を感じられなかったことも反応が遅れた一因だろう。なぜなら球体の正体は殺傷ではなく攪乱を目的とした煙玉だったからだ。

 煙玉は両断されると同時、凄まじい閃光と爆音を放出した。続く火薬臭と煙幕によって五感が機能しなくなる。

「こっちよ」

 それでもようやく聞き取れたのは女の声。おそらく煙玉を投げた張本人なのだろうが、五里霧中の中ではどこから聞こえてきたのか定められない。

「ならばこうだ!」

 眼帯男は両手に長剣を装うと、翼の羽ばたきのごとくに両腕を開いた。生み出された突風が瞬く間に煙幕を引き千切って晴天を晒す。

 遠方に目的の姿を見つけた。女児の母親と思しき女を先頭に、レックとルーザーが路地へと消えていく。最後尾を走る女子が眼帯男に気付いて、無邪気に手を振ってから姿を消した。

 眼帯男の全身から急速に力が抜けていった。

「……しんがりが子供では追えないな」

 静かに言って、眼帯男は懸架帯へと納剣。

「女は生まれた瞬間から女とはよく言ったものだ。男の身で女に勝てるはずもなし、か」

 まるで実体験を交えたかのような、しみじみとした心中だった。

 騒ぎを嗅ぎつけてか無数の足音が近付いてくる。そろそろ時間切れのようだ。

 眼帯男は大きく跳躍。そして眼帯男の姿が消えた。

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