あふれんばかりの花束を君に
郊外にひっそりと霊廟が建っていた。小さくて古い霊廟だ。
石造りの外観は、ともすれば絵本に出てくる小人の家を思わせる可愛らしさすら備えていた。人一人がようやく通れるだけの出入り口を抜けると、小さな玄室に横たわった石棺が目に入る。長い年月によって石棺に刻まれていたであろう名は摩耗し、風化して、読めなくなっていた。
何者かが定期的に訪れているらしく、苔や汚れなどは綺麗に取り除かれている。床や壁には補修を繰り返した跡が見られた。
玄室中に溢れているのは、赤や青、桃色に空色、黄色や白、自然界には存在しない緑色や灰色や黒など、ありとあらゆる色の花々。様々な石を削って作りだされた、石細工の花々だ。
それは決して目を覚ますことのない死者に贈られた、永遠に咲き続ける見渡す限りの花束だった。
石の花のいくつかは同じく長い年月によって角が取れ、丸みを帯びている。何十年も、あるいは何百年も、石棺に眠る者のためだけに咲き続けてきたのだ。
玄室の床に薄く降り積もった埃には足跡が残されていた。足跡は玄室に入ってくるや、脇目も振らず石棺に向かうと、引き返して、再び外へと歩いていく。
石棺の蓋にはたった今手向けられたばかりとも思える、真新しい石の花が添えられていた。