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瞳に浮かぶ戦火の記憶 【3】

「葬星禁器、何度見ても凄まじい性能の兵器だ」

 照明が自動的に起動して、卓上で指を組んだゼッペルの姿が照らし出された。

「勝者もいないまま《人間戦争》は幕を閉じ、《救世主》と《葬世者》は何処かへと姿を消した。しかし《人間戦争》が残した爪痕は深く、人類の文明水準は一気に中世にまで後退し、疲弊したこの星は長い休息の期間に突入することとなった。

 そして四十八の《葬星禁器》は何処かへ封じられたという」

 独り言ちるゼッペルは手に握った携帯端末を操作した。立体光学映像が起動し、映し出されたのは広大を通りこして馬鹿げた広さの空間だ。空間の端や天井は輪郭すら摑めない。どこかの屋内なのだろうが、家屋どころか城ですら入ってしまいそうだ。

 その広すぎる空間一杯に、巨大な物体が安置されていた。

 意図せずゼッペルの口角が吊り上がっていく。

「その葬星禁器が、今や我が手の内にある」

 無機質なゼッペルの声が、このときだけは熱を帯びているように感じられた。

「これでようやく始められる、私の人間殲滅計画が」

 誰にも語ったことのない本心がゼッペルの口から零れた。

 長い計画だった。そのためにゴルタギアに根を下ろし、何十年何百年とかけて資金と人材を整え、膨大な文献を紐解いて葬星禁器の在処を割り出したのだ。

 ふと、ゼッペルは疑問に行き着いた。

「あの襲撃者どもが現れたのは偶然か? ……いや、葬星禁器を手に入れた帰途での襲撃を偶然で片づけるのは軽率だ。つまりやつらの目的は、葬星禁器ということか」

 それなら腑に落ちるというものだ。

「だとしたら、やはり愚かだ。人間に対して葬星禁器を向けるつもりなら、私は積極的に力を貸すというのに」

 それなのに力を奪い、独占せずにはいられぬとは、やはり愚かで利己的な人間は滅ぼさなければならない。

「ゼッペル様、よろしいでしょうか?」

 そのとき扉が叩かれ、ゼッペルは「入れ」と入室を促す。

「実は、少々問題が起きまして……」

 口を開いた配下の表情は、緊張と不可解さで如実に強張っていた。

 これを目にした者が人間であったなら、それだけで不穏な空気を感じたことだろう。しかし感情を持たないゼッペルに、配下の様子から事態を汲み取ることなどできない。

「実は、回収していたはずの襲撃者の死体が、消えました」

「なにを馬鹿なことを!」

 ゼッペルは思わず口調を荒らげていた。どうして自分がそんなにも動揺しているのか分からぬまま、言い訳めいた言葉を早口に捲し立てる。

「それはなにかの手違いだ。そうに決まっている。でなければ……」

 そこでゼッペルは脳内検索。記憶領域からこの場に適した表現を探す。検出されたのは、配下たちの無駄口から聞き拾った、下らない映画の陳腐な台詞だ。

「死体が独りでに歩き出したとでも言うつもりか?」

 轟音。突如として部屋の壁が砕け散った。壁の破片が家具ほどもある瓦礫となって室内に雪崩れこみ、運悪く壁際に立っていた配下は悲鳴とともに押し潰されてしまう。

 大穴から足が伸び、床を踏む。部屋に入ってくるのは黒一色の人物。

「見つけた」

 ルーザーはゼッペルの姿を認めると、得意満面に笑みを浮かべた。

「思ったとおり。襲撃が失敗した直後に再襲撃を仕かけてくるなんて、これっぽっちも警戒していなくて手薄だ。油断だね」

「油断? 油断だと? この私が?」

 ゼッペルの人形然とした表情に亀裂が走った。

「この私が油断などという、人間のように愚かな失敗を犯すものか。貴様が口にしたように、直後の再襲撃はないと合理的に判断したまでだ」

 ゼッペル自身にも、どうして自分がこんなに気を荒立てているのか理解できていなかった。ただ、精神の奥底を支配する強烈な指向性に従って言葉を吐き出していく。

「いや、そうではない」

 その言葉が突然止まった。

「どうしてだ? なぜ貴様は生きている? 心臓は確実に止まっていたはずだ。それは私も確認した。配下や検死官は騙せても私は騙せない。騙せるはずがない!」

 そこまで早口に捲し立てて、ゼッペルの表情にさらなる不可解さが広がっていく。

「いや……今も心臓は止まっている、のか……?」

 ルーザーの頭の上で電球が光った。違和感の正体がようやく分かったとばかりに晴れやかな表情となる。胸を拳で二、三回叩くと、止まっていた心臓が鼓動を取り戻した。

「これでよし」

 納得したように頷くルーザーに対し、ゼッペルの顔は機能不全を起こしたように歪んでいた。人間であったなら動揺したと言ったところか。

「貴様、人間ではないな。まさか貴様も私と同族、人造人間だというのか?」

「人間だ」

 答えたルーザーの声はいつになく力強かった。自分自身の存在を肯定するように、腹の底からの全身全霊で言葉を紡ぐ。

「僕は私は、人間だ」

 ルーザーがゼッペルへと歩を進めていく。全身から溢れ出すのは確固とした信念の闘志。人形にすぎないゼッペルでは持てようはずもない、魂の輝きの発露だ。

「破壊する」

 どこかで耳にした言葉だった。その言葉でゼッペルはようやく気がついた。目の前に立つ人物が、映像の中の人物と重なっていく。

「貴様は、貴様はまさかあああっ⁉」

「全ての葬星禁器は、破壊する」

 ゼッペルの驚愕を貫いて、流星となったルーザーが駆け出した。

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